第31話 魔導具作りのお手伝い

 屋敷に戻ってきた。


『私のしたこといけなかった?』


 アレクシアは申し訳なさそうな表情を浮かべて言った。


『……うーん、あの場合は別に仕方なかったかもね。でも、なるべくああいうことは他の人にしない方がいいと思うよ』

『分かった。気を付ける』

『うん。えらいね』


 そう言うと、アレクシアはじーっと俺の目を見つめていた。

 たまにアレクシアから見つめられる機会はあった。

 ラスデア語を教えてるときも今のように見つめられていたことを思い出す。

 そして、アレクシアはゆっくりと口を開いた。


『現代の人は頭を撫でたりしないの?』


 ……頭を撫でる?

 一体どういうことだろうか。

 俺はアレクシアの発言を何度も咀嚼して、意図を分析する。


 その結果、どう考えてもアレクシアが褒めてほしいと言っているようにしか思えなかった。


『え、えーっと、俺がアレクシアの頭を撫でればいいのかな?』


 アレクシアはコクコクと頷いた。

 表情には恥ずかしそうな様子など微塵もない。

 ……ルーン族は褒めるときによく頭を撫でていたのだろうか。

 俺は頭を撫でられたことが一度もない。

 むしろ褒められるようになったのも最近になってからだ


 それに比べて、アレクシアはルーン族の王女様だ。

 よく褒められて育てられてきたのかもしれない。

 俺の褒め方では、アレクシアの満足のいくものではなかった可能性が高いな。


『じゃあ撫でるよ?』

『うん』


 アレクシアの頭に触れる。

 サラサラな髪の毛だ。

 手の平でアレクシアの頭を撫でると、とても触り心地がよかった。


『褒めてくれないの?』


 やっぱりアレクシアは褒めてほしいようだった。

 褒めるって言ってもなんて褒めればいいんだ……?

 さっき言ったようなことを繰り返せばいいかな?


『アレクシアは偉いね。今度から気をつけようね』

『うん。そうする』


 満足そうな表所を浮かべるアレクシアはとても可愛らしかった。


 それから俺達はユンの工房へ向かった。

 ユンがアレクシアと会話したいらしいので、俺に二人の内容を翻訳してほしいとのこと。

 屋敷の一室がユンの工房となっており、そこには色々な魔導具が置かれていた。


「ユン、連れてきたよ」


 工房に入ると、ユンは魔導具と睨めっこしていた。

 魔導具を作成中のようだ。

 話しかけても気付かないとは凄い集中力だ。


「あーもう! わからーん!」


 集中力が切れたのか、ユンは両腕をあげて、身体を伸ばした。


「あれ? ノアとアレクシアじゃない! いつの間に来ていたの?」

「今来たばかりだよ」

「あ、覚えててくれたのね! 私がアレクシアと話したいって言ってたこと」

「そうそう。ちょうど屋敷に戻ってきたからユンに会いに行こうと思って」

「ふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない!」


 ユンと会話することはアレクシアの勉強にも繋がる。

 アレクシアもユンと会話したいと言っていて、丁度いい機会だった。


『ユンは何を作っていたの?』


 アレクシアは俺の袖をちょっと引っ張って、ユンの作成中の魔導具に指先を向けた。

 それを翻訳してユンに聞いてみると、


「ああ、これは魔物探知機を作っているのよ。冒険者ギルドから依頼があってね。魔物を探知する仕組みを考えるのがとても難しいわ! 良いところまで来ているんだけどあとちょっとが上手くいかないわ!」


 これをアレクシアに翻訳。


『魔物? 魔物ってなに?』


 すると、アレクシアは不思議そうに頭を傾げた。


『アレクシアは魔物を知らないのか?』

『魔物なんて聞いたことも見たこともない』

『アレクシアが暮らしていた時代に魔物は存在しなかったのか……』

『うん。多分』


 これが事実なら魔物はどのようにして生まれたのか。

 歴史を見ても魔物は当たり前のように生息している。

 アレクシアが眠ってから魔物は生まれるようになったのか……?


「なになに! 何を話しているの!?」

「……いや、ユンが作っている魔導具の説明をしたら、アレクシアが魔物を知らないって言うんだ」

「え!? そうなの!?」


 驚くユン。

 そしていつの間にかアレクシアはユンの魔導具を手に持っていた。


「あら、アレクシアは私の魔導具に興味を持ってくれたのかしら!」

『これは私が見たことない技術。とても面白い』

「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ! このボタンを押すと魔物を探知できるようにしたいんだけど、中々上手くいかないのよね! それさえ乗り越えれば一気に完成まで近づくんだけどね」


 二人は楽しそうに話しているが、その裏に俺の頑張りがあることを忘れてはいけない。


『そう。ならこうすれば完成する──《刻印》』


 そう言って、アレクシアは《生体反応分析》の古代文字(ルーン)を記し始めた。

 条件を付けて、魔物だけを検出するように絞っている。

 俺がさっき『魔物』と翻訳した情報だけで見事な古代魔術を一瞬にして完成させた。

 手際が良くて、つい見惚れてしまうほどだった。


『はい。多分完成したよ』

「ははは、またまた~! そんなにすぐ完成するわけないじゃない」


 冗談半分でユンは魔導具のボタンを押した。

 画面に魔物が検出される。

 画面に映る反応は1体。

 多分ファフニールだろう。


「か、完成してる……!?」


 ユンは更に驚くのだった。

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