第13話 妖精の行方

 森に到着した。

 早速、妖精の花を探していこう。


「《素材探索》」


 前回と同じように《素材探索》を詠唱し、周囲の状況を調べる。

 調べられる範囲は2km圏内に限られる。

 それ以上は場所を移動しながら探していく必要があった。


 この辺りには見つからないな。


『ファフニール、移動するよ──《疾駆》」


 森の中に足を踏み入れ、木々の間を駆け抜けていく。

 ファフニールも俺と同じスピードでちゃんと追いついてきている。

 身体は小さくなっても実力は流石だ。


 移動の最中も《素材探索》は維持し続けているため、周囲の状況は常に変化していく。

 だが、妖精の花は見つからない。


『どうしてさっきみたいに《空間転移》で移動しないのだ?』


 ファフニールは移動中、疑問を口にした。


『単純に《空間転移》は魔力の消耗が激しいんだ。だから何度も使うと、すぐに魔力が枯渇してしまう』

『なるほど、便利なものは便利なりに代償があるというわけだな』

『そういうことだね。使いすぎには注意しないと』

『まぁ何かあった場合は我もおる。ノアが使いものにならなくても守ってやることぐらいは造作もないぞ』

『頼りになるよ、ファフニール』


 森の中を駆け巡っていると、野生の魔物の気配がなんとなく分かった。

 だが、こちらを攻撃してくる様子はない。


『この辺りの魔物は小物ばかりだな。この程度のスピードについて来られないとは』


 ファフニールはそんな感想を漏らした。

 なるほど、確かに速すぎる獲物は狙うに狙えないだろう。

 この辺りの魔物はF~E級の低級向けの奴らばかりだから、能力はそれほど高くないようだ。

 まぁ俺もF級冒険者なんだけどね……。


『ほう。我らを獲物として狙ってくるチャレンジャーも中にはいるようだな』


 ファフニールは呟いた。


『どうして分かるんだ?』

『ほう? ノアはこの殺気が感じ取れないのか?』

『え? あ、うん』


 ファフニールが言うには、どうやら俺たちに殺気を向けている魔物がいるようだ。

 俺はそれを感じ取ることが出来ない。


『……本当に実戦経験が少ないようだな。それであそこまで見事に魔法を使いこなすとは……。まぁよい。ノアはそのまま妖精の花を探していろ。邪魔するヤツは我が始末しておこう』

『分かったよ。ありがとう、ファフニール』


 ファフニールは更にスピードを上げて、俺の先を高速で飛行していく。


「グオオオオァァァァァァァァァァァッッッ!!!」


 魔物の悲鳴が聞こえた。

 まさに瞬殺。

 ファフニールが魔物を仕留めたことが容易に想像出来た。

 味方になってくれると大変心強い存在だな……。



 ◇



 しばらく森を駆け回り、妖精の花を探したが一向に見つかる気配はない。

 この辺りを探索し終わると、森全体の状況を一度見たことになる。


「どこにもないな……」


 妖精の花は見つからなかった。

 本来なら森に生えているはずが、どこにも見当たらない。

 これは最悪の事態だな……。

 妖精の花がここにないのなら、他の場所を探さなればいけない。

 ここから近い場所はたしか、隣国のエルフの森付近だろうか。

 近いといっても移動に数日はかかる。


『この森、何か変だな』

『変?』


 ファフニールはコクリと頷いた。


『我が封印される前には妖精が住み着いておったというのに、姿は見せずとも気配すら感じられんとは』

『妖精の花が見つからない原因もそれが関係しているのかな?』

『我には分からんが、妖精が一度住み着いた森を離れるとは考えられん。それにこれだけ平和な森は妖精にとっても居心地が良いはずだ』

『始末されたか、もしくはどこかに連れて行かれたか……』

『それならば残っている妖精がいるはずであろう。一匹もいないという状況がおかしいのだ』


 妖精の花は妖精が育てているという言い伝えがある。

 それを鵜呑みにするのであれば、妖精の花が生えていない原因は妖精がいないことじゃないか?


 ……ファフニールの発言を聞いて、俺は考えを変えた。

 エルフの森に行くのではなく、妖精が消えた謎を突き止めよう。


 そう思うと、俺も少し違和感を覚えた場所があった。


 急に大気中の魔素が途切れている場所があったのだ。

 魔素とは大気中に漂う魔力のことで、本来ならば僅かでも魔素が存在しているはず。


 ……調べる価値は十分にありそうだ。


『ファフニール、気になるところがあったからそこを調べに行くよ』

『分かったぞ』


 森の中にある湖に移動した。

 この湖を境に魔素が途切れていた。


 魔素が途切れる原因として考えられるのは、認識阻害の役割を持った結界などが考えらえる。

 この湖に何か隠されているのかもしれない。


「《魔光波》」


 《魔光波》は結界を特定するための魔法だ。

 右手を前に出し指先から金色の光を発した。

 本来なら湖を通過するはずの光は、湖の中央で止まり、巨大な球状に光が拡散した。

 この拡散した光の範囲こそ、結界の領域である。


 巨大な球状の光によって、暗に包まれていた辺りが照らし出された。


『よくここに目星をつけたものだ。一発目から当たりではないか』

『魔素がこの湖を境に途切れていたからね』

『殺気には気付かぬのに、魔素には敏感なのか。間違いなくノアの才能であろうな』

『俺には魔法の才能なんてないよ。とにかく、今はあの結界を調べよう』

『……うむ。そうだな』




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