第6話 巨竜ファフニール
ひとまず、ファフニールの攻撃に対処しなければいけない。
《魔力障壁》で展開した結界を動かして、ファフニールの前足を弾き飛ばす。
ファフニールの巨躯(きょく)が動いたが、倒れることはない。
でも、この隙に古代魔法が詠唱できるはずだ。
「《終極の猛火》」
ウィンドタイガーを一撃で倒した《終極の猛火》をファフニールに向けて放った。
「グワアオォッ!」
ファフニールの大きな口から青の火炎が放たれた。
青の火炎と紫の火炎がぶつかり、相殺され、大きな衝撃が発生した。
凄まじい風に俺は吹き飛ばされた。
この向かい風の中では詠唱が出来ない……!
宙に投げ出された俺は《軌道反転》を無詠唱で発動。
これで吹き飛ばされた際の勢いは消すことが出来た。
「《空歩》」
《空歩》を詠唱し、俺は宙に浮かぶ。
「よし、お返しだ──《魔力衝撃》」
ファフニールに魔力で衝撃を与える。
ドンッ、とファフニールの巨躯(きょく)が揺れて、地面に倒れた。
ただこれはバランスを崩しただけ。
まだ勝負の決め手にはなってない。
『なんだこの人間……! 化物か!?』
なにか聞き慣れない声がした。
下を向き、セレナさんを見てみる。
唖然とした表情で俺を見上げていた。
うーん、仮にセレナさんが言うならわざわざ人間って表現をするか?
妙に引っかかる言い回しだった。
『なぜ封印から目覚めたばかりでこんな化物と戦わなければならんのだ!』
化物と戦う……?
もしかして、この声の主ってファフニールだったりするんじゃないか?
俺は試しに話しかけてみる。
『今喋っているのは、もしかしてファフニールですか?』
『ぬ!? まさか化物が喋っているのか!?』
この様子だと、どうやら声の主はファフニールのようだ。
『ば、化物って……。地味に傷つきますね……』
『お、おお、それはすまん……。なんと呼べばいいのだ?』
『ノアって呼んでもらえると嬉しいです』
『うむ。分かったぞ、ノア。ところで一つ頼みがあるんだが……どうか殺さないでくれぇ!!!』
『良いですよ』
『……い、いいのか!?』
『意思疎通出来るようですし。でもそのかわり、これから人間を殺さないって誓ってくれますか?』
『ふっ、それぐらい容易い。なにせ我は草食なのだからな!』
めっちゃ意外な事実が明らかになった。
他のファフニールはどうなんだろう。
ちょっと気になった。
『他のファフニールも草食だったりするんですか?』
『いや、我だけだろうな。我は昔、ヤンチャしていたんだが、そのせいでこの火山に封印されることになってしまったのだ。最近目覚めたが、こうやって人間が我を倒しにやってくるので困っておる。自分がファフニールのイメージを下げてしまったのが原因だろうな』
『ふむふむ、分かりました。とりあえず、今ここにいるもう一人の人間と話してみますね』
『おお、助かる! 説得してやってくれ!』
うーむ、なんとも気のいいファフニールだ。
……あれ?
平然とファフニールと話していたが、これってなんかおかしくないか?
普通は魔物と話せないんじゃないか?
……まあいいか。
とりあえず、セレナさんを説得してみよう。
地面に降り、セレナさんに近寄る。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど、それよりファフニールをなんとかしないと……! 私もあなたのサポートぐらいなら出来るはずよ!」
セレナさんは傷ついた身体を無理に動かして、立ち上がろうとした。
「ちょ、ちょっと一旦ストップ!」
「私なら大丈夫だから! それにこの機会を逃すとファフニールを倒せない……!」
「違うんです! このファフニールは温厚な奴なんです!」
「温厚? どこがよ! あなたのことを先に攻撃してきたのはアイツでしょ!」
「確かに……」
俺はファフニールに尋ねる。
『ダメだ、ファフニールから攻撃してきたせいでこの子が信用してくれない』
『ひぇ~っ! そんなぁ~! この戦いはその子から仕掛けてきただけなのだ! 我がノアに攻撃を仕掛けたのも仲間だと思ってやったのだ!』
『なるほどね、分かったよ。伝えてみるね』
『よろしく頼む……!』
セレナさんはジーっと俺を見ていた。
まるで不可解なものを見るかのように。
「ね、ねぇ……あなたさっきから何を話しているの?」
あぁ、そうか。
セレナさんは俺が口にしている言語が分からないわけか。
古代文字を理解しているものにしか詠唱は理解出来ないし、ファフニールと話しているのも訳が分からないことだろう。
話しているときは気付かなかった。
しかし、ファフニールと会話するときの言語はラスデア王国の共通語であるラスデア語とは大きく異なる。
「実はね、このファフニールと会話をしていたんだ」
「ファフニールと会話!? そんなこと出来るわけないじゃ……」
セレナさんはそう言いかけて、黙った。
「……確かにファフニールの動きが止まってる」
「うん。もうこのファフニールに戦う意思はないんだ」
「……そ。分かったわ。あなたのことを信用してみる。私のこと助けてくれたわけだしね」
「おお! それは嬉しいよ! ありがとう!」
「べ、別にそこまで喜ばなくても……」
「いやいや、こんな平和的な解決が出来るなんて思っていなかったからさ。本当にありがとう!」
「……感謝するのはこっちの方なのに」
セレナは小さな声で何か呟いた。
よく聞こえなかった。
「ん? 何か言った?」
「な、なんでもない! ……ふぅ、とりあえず私の考えを伝えておくけど、これで平和的な解決だと思わない方がいいわ」
「……そうか。ファフニールを倒さなかった場合、ラスデア王国は間違いなく討伐しにくるのか……」
「ええ。それは間違いないと思うわ。仮にあなたの言う通りこのファフニールが温厚な魔物だとしても国はそれを信じることは出来ない」
「ファフニールがどこかに移動すればいいんじゃないか?」
「ダメよ。そんなことをすれば、間違いなくファフニールは討伐の対象になる。……今ファフニールを倒さなくてもどこかで倒されることになるわ」
……何か策はないかな。
俺は腕を組んで、考えた。
すると、ある古代魔法を思い出した。
これならファフニールを救うことが出来る。
『話し合いの結果、ファフニールは今倒されなくてもこのままだと、どこかで倒されることになるみたいだ』
『エーーーーーッ! そんなぁ……! ノア、なんとかならんのか……?』
『一応、助かる方法はあるけど、これはファフニール次第だね』
『なにっ! 助かる方法があるのか! ならば我、なんでもやるぞ!』
『うん。でも断ってくれてもいいからね? ファフニールの意思を尊重したいからさ』
『うむ! 勿体ぶらずに早く教えてくれ!』
『──俺と従魔契約を結ぼう』
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