第3話 獣王祭

 あれから更に二回暗殺者がやって来たが、返り討ちにしてやった。だが結局裏切り者共は自ら動くことはなく、『獣王祭じゅうおうさい』の日を迎えることとなった。


 仕方がない……他人に観られながら戦うのは避けたかったけど、俺様のスキルの能力がばれない様にうまく立ち回るしかないか。


 いや、考えようによっては『不死身』と嘘申告した事によって逆に堂々と戦えるようになったか。


 コロシアムに着くと控室に案内された。勿論個室だ。備え付けの飲み物や食べ物が置いてあるがそんな危険な物に手を付ける訳がない。


 それにしてもさっきの案内役に聞いたがどうやらまたルールを変えた様だ。事前に選手達には手紙で通達したと言っていたが、当然来てないな……まあ多分俺様のスキルの情報が耳に入ったから変更したんだろうな。偽だけど。


 硬い椅子に腰かけ俺様は『獣王祭じゅうおうさい』の勝ち抜き戦の対戦表が書かれてある紙を観る。


 よし、情報通りちゃんと裏切り者の四人の大臣は参加しているな。まあ俺様の存在が邪魔なのに、雇った奴等が全員失敗した以上自ら参加するしかないからな。

 

 ルールも変えたし、自分達が負ける事なんかこれっぽっちも思っていないんだろうなぁ。


 そして予想通り俺様は一回戦目からの出番か。俺様と初戦の相手でもあるもう一人の奴が一番多く戦う事になる。勿論勝ち上ればだが。


 俺様の初戦の相手は羽兎はねうさぎ族か、兎系の獣人族はあまり戦闘が得意な種族じゃないし、今までだって『獣王祭じゅうおうさい』に参加した記録な無いけどな。


 何か心境の変化でもあったか、よっぽどウォルフの奴に恨みでもあるのか。


 暫くすると大会委員が呼びに来た。


「レグルス坊ちゃま、じゃなかった、レグルス選手、そろそろお時間なので準備をお願いします」


「ああ、俺様はいつでもいけるぞ」


 結局ウォルフの奴らは仕掛けてこなかったな、諦めて『獣王祭じゅうおうさい』でちゃんと戦う気になったか。いや、ルールを変えて対策済みか。


 ワー ワー ワー ワー


 俺様はコロシアムの舞台に向かった、凄い熱気と歓声だ。こんなところで戦ったことが無いので少し緊張してきたな。


 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 円形に作られた巨大なコロシアムの観覧席は色々な種族の獣人でびっしりと埋まっている。中央には石畳で作られた縦25m、横25mの大きな正方形の舞台が有り、その舞台上には今大会の審判である可愛らしい猫又ねこまた族の女性が『マイク』と言う声を大きくする魔道具を片手に持ちピョンピョンと跳ねていた。


「みにあぁぁっぁぁさま、会いたかったにゃぁぁぁ! 『獣王祭じゅうおうさい』五年ぶりの開催になるにゃぁ! 前回は何と黒狼族のウォルフ様が獣王ににゃられたけど、さて今回は一体どの種族が獣王ににゃるのかにゃあぁぁぁあ」


 ワー ワー ワー ワー


「ただ今回の対戦方法はまさかの勝ち抜戦にゃぁ。これはあまりにも不公平な対戦方法にゃあ、だが獣王ウォルフ様がお決めににゃったので仕方がにゃいにゃあ」


 ブー ブー


「では『獣王祭じゅうおうさい』のルールを説明するにゃあ。今回はいつもとは少し違うにゃあ。でもこれも獣王ウォルフ様がお決めににゃったので仕方がにゃいにゃあ」


 ブー ブー


「まずは、武器や魔道具、アイテムの使用は一切禁止にゃ、これはいつもと同じにゃ、次に制限時間は無制限で、降参するか、気絶、そして死んだ場合はその選手の負けにゃあ、ただ故意に殺した場合は特に罰はにゃいけど皆の印象が悪くにゃるにゃあ、気を付けるにゃあ、これもいつもと同じにゃ」


 ワー ワー ワー ワー


「ここからがいつもと違うにゃあ! なんと今回は場外負けを採用するにゃあ! この舞台上から落ちたら今まで優勢だったとしても、もう負けにゃぁ、理不尽にゃあ……でもこれも獣王ウォルフ様がお決めににゃったので仕方がにゃいにゃあ」


 ブー ブー

 

 ああ、これは完全に俺様の『不死身』スキル対策だな。


「では早速始めるにゃあ。第一試合は前獣王デネボラ様の忘れ形見! 金獅子族代表レグルス坊ちゃま――レグルス選手にゃぁあああ」


「うぉぉぉぉ、レグルス坊ちゃま、がんばってくだせぇぇぇぇ」


 城の門兵の野太い声援が聞えた……仕事は休みなんだろうか?


「そして対戦相手は跳躍力なら誰にも負けにゃい羽兎はねうさぎ族代表アルネブ選手にゃああああ。両選手は舞台へ上がるにぁぁぁぁあ!」


 ワー ワー ワー ワー


 俺様は舞台へ上がり対戦相手のアルネブを見た。耳が鳥の羽の様に大きく、背丈は俺様より低く目がパッチリしていて胸が少し膨らんでいて、よく見たら耳に赤いリボンが付いている……うん、女の子だわ。うーんやりづらいなぁ。


「あたいは羽兎はねうさぎ族のアルネブ! あんた前獣王デネボラ様の息子なんだってね、あの時代は良かったわ……でもあたいは負けるわけにはいかない。本気で行くよ!」


 そうだった、これは遊びじゃない、獣王を決める大会。相手も戦士だ。女の子だからやりづらいとか失礼だよな。


「ああ、俺様は金獅子族のレグルスだ、俺様も手加減はしないぜ!」


「では第一試合ぃぃぃぃ始めにゃぁぁぁぁぁ!」


 合図と同時にアルネブはしゃがみこみ、耳の羽を広げバサリと一度羽ばたくとそのまま空高くまで飛んだ、いや跳躍した。


 「いくわよ『超急降下脚ちょうきゅうこうかきゃく』!」


 空中で両耳を折りたたみ両足を俺様に向けてものすごい勢いで落ちて来た。

 

しかし流石にこれだけ距離があれば避けるのも難しくはない、俺様はその場から数歩離れた。すると片方の耳をクイっと動かし軌道を変えて来た。


「なっ!?」


 あ、危ない、間一髪回避できたがアルネブの足元の床の石畳は粉々に砕けて深い穴が空いていた。


 審判の猫又の顔をチラリと見ると『まだ一試合目にゃあのに……』という苦い顔をしていた。


「流石ね! よくあたいの必殺技を避けられたわね」


「ああ、だがまさか空中で軌道を変えられるとはな」


「……」


「……? どうした? ん、もしかして穴から抜け出せないのか?」


 体を前後左右にゆすって、もがいているが微動だにしない。そしてアルネブの額から一粒の汗が流れ落ちた。


「悪いがこれも真剣勝負だ、決着をつけさせてもらうぜ」


 俺様はアルネブの背後に回り腕を首に回し絞め落とすことにした。


「安心しろ、絞殺したりはしない、落とすだけだ」


「く、まさか初戦で負けちゃうなんて、せめて次の相手のキタルファと戦いたかったのに」


「なんだ、そいつに恨みでもあるのか?」


「あるわよ、ウォルフが獣王になって人間族との貿易を禁止したのは知っているでしょ? でもキタルファは陰でこそこそと自分達だけ人間族と貿易をしていたのよ」


「まあ、あいつは大臣になって自分の領地も持って居るからそれくらい簡単にできるだろうな、特に魔法国家キャンサーは便利な魔道具も多いし、それで何を取引しているんだ?」


「人参よ!」


「え? 人参?」


「そうよ人参! それに気づいたあたい達が『あたい達にも売ってちょうだい』とお願いしたらあいつなんて言ったと思う? 『十倍と同じ値段なら売ってやる』って言ったのよ! あたい達兎族はずっと我慢しているのに! 高くても一本銅貨一枚を、銀貨一枚で売るって言うのよ! 酷いでしょ!」


「いや、逆に人参はあまり好きじゃないから、俺様的には――」


「――は? 今なんて言ったの?」


 アルネブは凄く真剣な顔をしている、まあ物の価値観は人それぞれだしな。


「い、いや、何でもない、分かったよ、じゃあ俺様が獣王になったら、また人間族と貿易を再開して人参が安く手に入る様にしてやるよ」


「え? 本当?」


「ああ、本当だとも、だから降参してくれないか?」


「……約束よ、分かったわ。審判のお姉さ~ん! あたい降参します!」


「にゃ? あぁぁとぉ、アルネブ選手が降参したにゃあ、試合終了にゃあ、これにより一回戦勝者は金獅子族のレグルス坊ちゃん選手にゃぁあああ!」


 ワー ワー ワー ワー



~獣人国コロシアム選手控室 風馬族キタルファ視点side


「外が騒がしいでござるな、もしかしてもう決着が付いたでござるかな?」


 拙者と同族の部下の一人に尋ねた。部下は一度控室から出て行きすぐに戻って来た。


「はい、勝敗がついたようです、それより今回から他の出場選手の試合を観覧する事は可能になりましたがなぜ控室に? 対戦相手の試合は観ておいた方がよろしいのでは?」


「……特に理由はないでござるよ、それで結果は?」


「はい、どうやら羽兎族の自滅の様です」


「そうでござるか……やはり拙者の相手はデネボラ様の息子のレグルス殿でござるか」


「はい、分かっては居ましたが元主君のご子息と戦う事になってしまいましたね」


 望んだ事ではないと言え結果的に仕えた親子共々手にかける事になるとは……拙者は忍者失格でござるな――。

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