第10話 悪役令嬢はやっぱり狐がお好き

 あれから一週間かけて幅4m、長さ14mの二人で乗るには大きな船を作った。魔力の糸で木と木を繋げ、船上は聖属性の糸を巻いて白くし、船底には火属性の糸を巻いて赤くしたストライプな船よ。


 お爺様が存命していた頃はゴーレム船によく乗せてもらったので船の形状はよく覚えているわ。ゴーレムのコアがあればゴーレム船を作れたのだけど。ゴレクサを解体するわけにはいかないから、普通の船になっちゃったけど。

 

「はう、立派です、中には調理場や食堂もあるし、海水をくみ上げてお風呂に入れる仕組みも付いているし言うこと無いです。ただ寝室が一つしか無いのが……」


「それは先に他の部屋を作ったら寝室が一つ分しか無くなったのよ、深い意味は無いわ、それに一緒に居た方が何かあった場合都合が良いでしょ」


「そうですか、そうですね……では早速海へ行きますか?」


「そうね、船旅用の食材、お魚は釣ればいいからそれ以外と調味料を集めてシュラタン村の皆にご挨拶したら出発しましょう」


「マジックバックに時間属性の繊維も使って編み直してくださったので、食材が腐ることを心配しなくて良くなって助かります」


 村に着くと皆集まって来た。どうやら私達がいない間に私を探しに先輩達とは違うどこかの貴族達が来たみたいで村の人達が『知らぬ存ぜぬ』で追い返したらしい。本家の人達かしら? そして私達がここでの用事が終わったと告げると村の人達は涙を流して別れを惜しんでくれた。特に子供達は『聖女ヘレ様、聖女アリア様、行っちゃ嫌だぁ』と抱き付き泣きわめくので一人一体ずつ好きな色のぬいぐるみを作ってあげてプレゼントした。とても喜んでくれたけど、シュラタン村以外の人には余り見せない様にと念を押しておいた。


 そして村を出た後、一応気になっていたので、先輩達を埋めていた草原に立ちよった。流石にもう居なかったが、別に魔物に食べられてしまったとかではなく、普通に脱出して村には寄らずに帰ったようだ。穴が空きっぱなしで危ないのでゴレクサにお願いして埋めておいた。もう、土魔法使いも居たのだからこれくらいの穴を埋めるくらいすぐでしょうに。


 ゴレクサに乘って数日進むと海が見えてきた。早速進水式を始めましょう。ゴレクサに乘ったまま私達は海の中に入って行った。ある程度の深さまで来たので

 

「ここら辺でいいかしら、アリア、『白狐号びゃっこごう』を出すわよ、ゴレクサにしっかり捕まっていて」


「えっ? 『白狐号びゃっこごう』?」


 マジックバックから船底は赤いけど真っ白い船『白狐号』(『アリア丸』にするか昨日遅くまで迷ったわ)を取り出した。ザバーーンと海に浮いた。すごい波が来たけどゴレクサの肩までは届かない、そして船を暫く見ていたが沈まないようなので


「ゴレクサ、私達を船に乗せて」


 そう命令をして船に乗り込み、流石にゴレクサは乗せられないのでマジックバックに戻した。


「さてアリア出発するわよ」


 何か納得がいかないような顔をしているアリアに話しかける。


「え? あ、はい」


「ところで魔大陸ってどっちの方角なの?」


「え? えーと、あっちの方だと思います……多分」


 どうやらちゃんとは方角が分っていないらしい。不安だけどアリアと一緒ならきっと楽しいから大丈夫。それにしても魔大陸に何をしに行くのかしら? 理由は聞かないでと言われたから何も聞いていないけど、昔お世話になった人を救う手段がそこに有るのか、それともそこに昔お世話になった人が居るのか……まあどっちにしても私はアリアと一緒に行くけどね。


「じゃあ私が動力を出す係りをするから、アリアは操縦をお願いね」


 そう言い私は舵が取り付けてある場所の少し横に座る。そこには一本の太い管があり手前には口の小さなマジックバックが取り付けてある。


「アリア、準備はよろしいかしら?」


 舵に手をかけているアリアに向かって話しかける。白い尻尾もピンとなっていて触りたくなるのをうずうず――我慢する。


「はい、私の方は大丈夫です」


 私は大丈夫じゃなくなったけど……。


「じゃあ行くわよ、『マリオネット戦意』! ですわ」


 魔力の針と糸を一本出しそのマジックバックに繋げて持ち上げる。


「空気を取り込みなさい」


 そう言いマジックバックに魔力で命令を流し込む。するとマジックバックにどんどん空気が吸われていく音が聞こえる。ある程度吸わせたらまたマジックバックを管に装着させ


「空気をゆっくり吐き出しなさい」


 そう言いマジックバックに魔力で命令を流し込む。すると今度はマジックバックからどんどん空気が吐き出される音が聞こえる。と同時に船が前に進みだした。


 要は船底に付けてあるスクリューに管を通し空気を流し込んで回転させているのだ。一応帆も付けてあるのでそっちに空気を吐き出してもいいし、追い風が吹いている場合は自然に任せてもいい、また念の為オールも作っておいたわ。最悪大きなお魚を操って船を引っ張らせてもいい。こんな風に上手くいかなかった場合を想定していくつかの対策をしているわ。


「うまくいったわね、流石に海じゃないとこの大きさの船のテストは出来ないから、不安だったわ」


「はい! 流石ですヘレお嬢様、ではこのまま古の魔大陸へ向かいます」


「ええ、操縦は任せたわ、やっぱりアリアと一緒だと楽しいわね――大好きよ、ふふ」


「それは私のセリフです、ヘレお嬢様……私もご主人様の次に貴方が好きですよ、私と一緒ならきっと幸せになれますよ、ふふ」


 でも私にはアリアの言葉が波の音でかき消されて聞こえなかった――。


 生まれた国を離れると今までの思い出が走馬灯のように駆け巡る。あれ? その時私はふと頭の中で一本の糸が繋がり一つの答えに辿り着いた気がする。それは匂い。アリアの匂い。旅の途中で小動物が気絶していたのもゴレクサに驚いたのでは無くて私の服に染みついたアリアの匂いに恐怖したから、魔物に一度も出会わなかったのもその為。先輩が私に必要以上に噛み付いてくるのも分家だからとかではなく本能的に恐怖心を払拭しようとしている為、その部下のいきなり斬りかかって来た剣士もそうだったのだろう。学院の生徒や家族が私を避けるのもきっとそう――あれ? そう考えると私が悪役令嬢になった原因って……。


 私はなぜ人間族至高主義のこのアリエス共和国に白狐獣人のアリアが居るのか、亜人嫌いのお父様がなぜアリアを屋敷に住まわす事を許可しているのか、『狐火』の事を頑なに『火炎玉』と呼ぶのは何故か、なぜただのメイドのアリアだけ一人部屋を使えていたのか。この時の私は全く違和感を抱いていなかった――。


――そもそもアリアとはどこで出会い、どんな理由で何時から私のメイドになったのだろう――そしてアリアは何者で一体私に何をさせたいのだろう――その答えはきっともうすぐ分かるはず――古の魔大陸に行けば。


 その答えがどれほど残酷なものであっても私はきっとアリアを許すと思うわ、だってアリアが大好きだから――。



       『アリエス共和国』、『せんい』のヘレ編 【完】



●ヘレの現時点でのステータス

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ヘレ・ボイオティア (女、15歳)

種族:人間族


ジョブ:裁縫士

スキル:せんい Lv7:『ソーイング戦意』、『マリオネット戦意』、『水、火属性の繊維』、『風、土属性の繊維』、『聖、闇属性の繊維』、『次元属性の繊維』、『時間属性の繊維』


称号:『悪役令嬢』、『婚約破棄された女』、『聖女』、『アリア大好きっ娘』

―――――――――――――

大事な物:『ゴレクサ』、『白狐号びゃっこごう

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