第6話 崩壊と成長

 僕は朝から、見た目は可愛いが能力は人間の姿より高い『ジュニアタウロス』の姿になって、昨日ホーンラビットが居た場所に来ている。勿論スキルのレベルアップと食材確保の為だ。既に五匹ほど狩っている。


 近くにホーンラビットの巣でもあるのだろうか? 次から次へとピョンピョンと現れてくる。そして更に三匹ほど狩った時、またあの声が頭の中に響いた。


≪ピコン! 『解放条件 魔物を10匹殺す』を達成した事によりレベルが1つ上がりました。それにより『ガードタウロス』への変化が可能になりました≫

 そんな声が僕の頭の中に聞こえた。


「やったぁ、レベルが上がったぞ! 『ガードタウロス』?」そう思うと頭の中に情報が流れてきた。


―――――――――――――

『ガードタウロス』:身長2m。全身銀色の体で肉付きが良く、弾力性のある特殊な体毛で覆われた、防御特化型の牛の魔獣になる事が出来る。意識を失うか解除したいと思えば元に戻れる。

―――――――――――――

 

 え? 2mだって? ちんちんしたプレイオネと同じくらいか、楽しみだな。


「『ガードタウロス』にへ~んしん!」


 僕の身体が赤黒く光り出し胸に魔方陣のようなものが現れた。その魔方陣に吸い込まれるような感覚がし、今まで僕と同じ視線の高さだったホーンラビットを上から見下ろしていた。


 体中に生えている毛を触ってみた。ものすごく硬いけど、指で押してみるとすごく弾力がある――あと……アレ・・がすごく大きい。


 ミニプチやジュニアの時は裸でいても恥ずかしくなかったけど、流石にこれは僕が良くても周りがダメだと思う。

 かと言って、この身体に合う服もないし、うーん、取りあえず倒したホーンラビットを抱えてアレを隠しながら拠点まで戻ろう――それにしてもポッチャリしているせいで体が重いな。


 拠点に折りたたんで置いていた服の、袖の部分を腰に回し後ろで結んで前だけを隠してみた。この姿の時はとりあえずこれで我慢して過ごす事にした。


 ホーンラビットではこの身体の相手としては物足りないので、更に森の奥へ進み強敵を求め歩き回っているとゴブリンを見つけた――しかもゴブリンの巣、集落があった。


 ゴブリンは他種族の女性をさらい、集落に持ち帰り酷い事をするので、もし見かけたらすぐに言うようにと、父さんからきつく言われていた。


 クレタ村の奴等はどうでもいいが、他の村の人達の為にも殲滅することにした。

 こんな事を考える自分に、僕自身も驚いているが、村であんな事があったからなのか、この姿になれるようになったからなのかは分からないけど、かなり好戦的になって来たと思う。


 僕は特に作戦を立てる訳でもなく、『プレイオネの槍』を持ち、近所に挨拶でもするかのようにスタスタとゴブリンの集落へと近づいて行った。


 僕に気が付いたゴブリン達は、ギャッギャと騒ぎだし、棍棒や、錆びた剣、槍を片手に向かってきた。今の僕の半分くらいの背丈のゴブリン達は『プレイオネの槍』を持った僕に一度も武器が届くことなく、喉や胸を突かれ倒れて行った。


 倒しても、倒しても、ゴブリン達は僕に怯むこともなく立ち向かってきた。

 集落には五十匹ほどのゴブリンが居たが、そのほとんどを倒した。

 

 しかしまだ例の天からの声は聞こえてこない。

 木や枝で作っただけのこのゴブリンの集落の中で一番大きなボロ小屋からさっきまでのゴブリンより二回りほど大きなゴブリンが錆びた斧を持って出てきた。

 まあ、それでも今の僕よりはずっと小さいけど。


 とりあえず何も考えていないだろうなぁという感じでゴブリンが斧を掲げて突っ込んで来たので、胸を槍で一突きした。その拍子に斧が僕目がけて飛んできたが、ゴブリンを刺している槍を抜くために一瞬動作が遅れて、僕の肩に斧が刺さった――いや刺さっていなかった、ただ弾力性のある体毛に当たって地面に落ちた。


 当たった振動が少しはあったけど全然痛くないや。流石『ガードタウロス』。

 その後は残っていたゴブリンを一掃し、暮らしていた場所を見て回ったが動物や人間ものだと思われる骨は落ちていたが、使えそうな道具や生きたモノ・・・・・は居なかった。


 結局スキルレベルは上がらなかったか、残念。今日はもう帰ろう。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 それから一週間ほど経ち、別のゴブリンの集落を潰したり、ホーンラビットを狩ったり、それにポイズンスネークと呼ばれる毒をもった蛇の魔物、森ウルフと呼ばれる群れで行動する狼の魔物など、二百匹以上の魔物を倒したがスキルレベルはまだ上がらない。


 うーん、解放条件は数じゃないのかなぁ? そう思いつつも今日もまた森の奥へと進む。見覚えのない景色が見えてきた。こっちの奥までは来た事は無かったな。


 お腹も空いたし食事休憩にしよう、そう思い『ガードタウロス』になった僕の身長の二倍くらいの高さの大きな岩に上り、その頂上に腰かけ、道具袋から干し肉と水筒を出そうとした時、僕が腰かけた岩がグラグラッと揺れた。


「わっ!? 何だ? 地震?」、思わず声を上げてしまった。


 更に今度は腰かけた岩がズズズズズズッと動いた・・・。僕は立ち上がり岩の上から地面を観ると、この岩が動いていた。進行方向を観ると巨大な亀の様な顔が見えた。


 魔物? そういえば昔、父さんが森の奥で亀の魔物を倒したからと村に戻って来て、村中の大人達を引き連れて解体した素材を運んでいた事があったな。たしかその時の魔物の名前がロックタートルだったと思う。こいつの事かな? あの時は村中がお祭り騒ぎだったっけ。ははっ、それにしてもこんなにデカかったのか。


 そうだ思い出したぞ! その時に食べた亀のスープは今まで食べたご飯の中で、一番美味しくて何度もおかわりした記憶がある。


 そう思うと急にこのノシノシと動いている岩の様な亀が、食材に見えてきた。

 じゅるり、そして僕は思いっきり槍を岩、いや甲羅に突き刺した――がカキンッと音が鳴り響き弾かれた……駄目か、甲羅は硬すぎて槍が刺さらないや。


 僕は亀の首の部分まで走り『じゃあ、ここならどうだ!?』と叫び、槍で思いっきり刺した――がカキンッと音が鳴り響きまた弾かれた……ここも駄目か、ん? いや少しだけ傷がついているな。

 

 まあ『ガードタウロス』は防御特化だし仕方がないか。僕は腰にぶら下げている道具袋から一本の竹筒を取り出した。この中にはポイズンスネークの毒袋と森の中で採れた毒草、毒キノコを混ぜて潰した液体が入っている。そこに槍の先端を付ける。


 そして僕は思いっきりさっき傷をつけたところ目がけて槍を突き刺した。

 しかしロックタートルは何事も無かったようにノシノシと歩き続けている。


 駄目か、効き目がないか……結構会心の出来の毒なんだけどなぁ。

 どうしようかと悩んでいたら、突然ズドンッと音を立てて亀が倒れた。

 亀の顔を観ると口から泡を出し、目を見開いたまま死んでいた。


「よし!」、思わず声が漏れた。


≪ピコン! 『解放条件 中型サイズの魔物を1匹殺す』を達成した事によりレベルが1つ上がりました。それにより『パワータウロス』への変化が可能になりました≫

 例の声が僕の頭の中に聞こえた。


「えっ!?」、今ので解放条件を達成したのか! 『パワータウロス』? そう思うと頭の中に情報が流れてきた。


―――――――――――――

『パワータウロス』:身長2.5m。全身赤黒い色で筋肉質の体の攻撃特化型の牛の魔獣になる事が出来る。意識を失うか解除したいと思えば元に戻れる。

―――――――――――――


 よし早速「『パワータウロス』になれ!」


 体中を触ってみると腕も胸も足もすごくカチカチに膨れ上がっていた――あとアレ・・がやっぱり大きかった。

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