第4話 止まらない崩壊

 僕はまだ村の近くの森の中に居る。母さんの最後を見届けるまでここを離れるつもりは無かった。追手が来たとしてもこの姿ミニプチタウロスならそうそう見つからないだろう。


 この丘の上からなら声までは聞こえないが、村の広場は見下ろせる。残念ながら昨日・・居た牢屋までは見えないけれど――。


――そう、昨日なのだ、あれから一日経ったのだ。


 僕は村を脱出してから、この場所で母さんが言っていた通りスキルを使って変身を繰り返した。勿論スキルのレベルを上げるためだ。暗くなるまで何度も何度も変身したが一向にレベルアップする兆しがみえない。


 今日はもう――諦めかけて居た時、村の広場に動きがあった。プレイオネの解体が終わったのだろう、村人たちは父さんと姉さん、プレイオネだった物・・・・を荷車に積み、森の中へと入って来た。僕が逃げた事がばれておびき出す為に亡骸を使うのかとも思ったけど、森の中にある崖まで来ると、そこから亡骸を投げ捨てた・・・・・


「なっ!?」


 ミニプチタウロスになり、後を付けて見ていた僕は思わず声を上げてしまった。

 この国では土葬が常識だが、まさかゴミの様に投げ捨てるとは……。

 これもあの領主の指示なのだろうか――。


 しばらくし、村人達は軽くなった荷車を引き村へと戻っていった。

 それを確認し僕は急いで崖を滑り降りた。小さいけど身体能力が高いこの姿なら平気だ。下に着くと父さん達の亡骸が有った。近くに大きな木があり、そこに枝やロープ、石で作った簡易的なシャベルで皆を埋葬する為の穴を掘った。


 時間は掛かったが何とか三人分の穴を掘り……父さんを埋めた。次に姉さん。そして最後に一番変わり果てた姿のプレイオネを……。


 ん? プレイオネの口の中で何かが光った。手を入れ取り出してみると、牙だ。

 きっと槍で顎を刺された時、そのまま牙が折れ口の中に入り込んだんだろう。


 僕はそれを仕舞い、プレイオネを埋めた――。

 

 その後、プレイオネの牙を使って槍を作り、疲れた僕は父さん達が眠っている木の上で眠りについた。




 そして今、森の中のこの丘の上から村の広場を見ているところだ。きっとそこで母さんが処刑されるから……。


…………


 広場の中央に一本の太い丸太が打ちこまれ、そこに連れてこられたボロボロになった母さんを縛り付けた。

 村中の人達が集まって来て、領主や騎士達も寝泊まりしていた村長の家から出てきた。あれ? 昨日僕達を見張っていた三人の男達、その内の一人の姿が見当たらない。逃げられた責任を取らされて、僕を探しに行かされているのか、もしくは処刑されたのかも。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


~クレタ村広場 領主代理タイゲタ視点side


「村人どもよ、聴くが良い! 今から魔物という卑しい生き物を使い、愚かにも俺を亡き者にしようとした罪人の公開処刑を行う!」


 村人共が歓喜の声を上げた。


「静まれ! 本来なら捕らえたその親子で殺し合いをさせる予定だったが、自ら名乗り出た見張り役のくせに、その程度の事も出来ぬ無能がいた為に、ガキの方に逃げられてしまった」


 村人共が非難の声を上げた。


「だから予定を変えて、お前達が処刑をするのだ! 家族ごとに一人代表を出しこの縛り付けている罪人の女を槍で刺せ!」


 広場がざわつく。俺ははりつけの女を見た、チッ、もう覚悟を決めた顔をしてやがる。つまらんな……。


「出来ない場合は、こいつらの様になる、おい! 連れて来い」


 腕を縄で縛った四人の村人を俺の部下達が連れてくる。


「こいつらは昨日、罪人共の見張りをしていたリーダーとその家族だ」


「タ、タイゲタ様! お許しを! あの女にハメられたんです、それにあいつらが全部俺に罪をかぶせて、どうか、ぎゃぁぁぁぁぁ」


 俺は四人の村人の心臓を順番に剣で貫抜いて行く。女も子供も。


「おい、これから始める余興に邪魔だから、四人のゴミは片付けておけ」


 俺ははりつけの女を再度見た、ん? 先ほどとは違い申し訳なさそうな顔をしているな――なるほど、家族まで殺されるのは予想外だったという事か。面白い事を思いついたぞ。


「おい女! お前にチャンスをやろう」


「チャンスですか? そんなもの必要ありません、さっさと殺せばいいでしょ」


「まあ聴け! 今から村人達がお前を槍で刺す、が、もし十人刺し終わるまでお前が意識を保って居られたら、逃げたガキは無罪にして見逃そう」


 おっ? 女の表情が変わった、くっく、少し興味を持ったようだな。


「勿論、首から上と心臓には槍を刺さない様にさせる。どうだやるか?」


「本当に十人耐えたら息子を見逃してくれるの?」


「勿論だ! こう見えても俺は嘘をついた事はないんだぜ。」


「……分かったわ、やるわ」


 くっくっく、馬鹿かこいつ、ワザと急所を外させて、その分長く苦痛と恐怖を味合わせる余興だとも知らずに。


「おい!? あれはなんだ? 猛スピードでこっちに向かって来るぞ!」


 部下の一人が空を指さし叫んだ。その方向を見てみると鳥? 鷹か鷲か? いやそれより大きいな、魔物か? 悩んでいる俺の前に二人の影が入り込んだ。


 金色の鎧を着けた騎士団長のアインと、銀色の鎧を着けた騎士副団長のアマテルが俺を守るように前に出たのだ。


 突撃してきたその鳥の魔物を今まさにアインが剣で真っ二つにしようとした時。


「止めなさい、プレア! もういいの、貴方は自由よ。私の事は忘れて逃げなさい」


 その声を聞いた鳥の魔物は突撃するのをやめて急に上昇した。しかし止まらないアインの大剣が魔物の腹を斬り裂いた。 


 ピギィィィ


「ああ、なんて事を……ごめんなさいプレア!」


 その鳥の魔物はそのままフラフラと飛びながら森の方角へ消えて行った。


「申し訳ございません、タイゲタ様。殺し損ねました」


「いやいい、それよりもあの鳥の魔物は、あの女のペットみたいだな」


「そのようです、あの一家は全員『魔獣使い』という『従魔』スキルを使える一家だという話ですので」


「アイン団長、正確には逃げたガキは違うみたいです、村の女が言っていました」


「アマテル、それはどこで聴いたんだ? ベッドの中か? 来年きた時、この村はお前の子供だらけになっているんじゃないか? ガッハッハ」


「それで、その『魔獣使い』というジョブの能力や女のスキルに誰か詳しい奴はいるか?」


 俺は辺りを見渡すが特には居ないようだ……ふん、余計な事を話して目立ちたくないって事か。


「他に魔物が居るかも知れんし、わざわざ危険を犯してまで余興を続ける意味もないな、まあ興も冷めたし。よし、もういいぞ、面倒くさい、その女を殺せ!」


 俺は槍を持って用意していた村人達に命令をする。ズブッと同時に何本もの槍がその女を突き刺した。

 その女は最期に何か呟いたようだが俺には聞き取れなかった。

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