第2話 操電師(ブライター)として戦い

 レントが単独で動いていたころ、隊長を放置したままの葛葉くずのは隊は目的地に来ていた。三人の目の前では計四体の狼型の雷那(いずな)が建物の中に避難している人々を炙り出すために建物へと攻撃していた。しかしこちらの気配に気づいたのか一斉にこちらを向く同時に襲い掛かってくる。


「まずは私が場を整えます。その間に二人は準備を。」


 ハダネ副隊長の一声でライトとミズナがバイクにあらかじめ積んである自分の武器を装備する。その間にハダネは彼女の武器である雷球を取り出し、技を行使する。


 彼女たちやレントなどの操電師(ブライター)と呼ばれる者たちは電気を操り武器とすることで雷那(いずな)と戦う。では戦うのに必要な電気はどこから調達するのか。それは帯電器官と呼ばれる体内に電気を蓄えるための器官を体に埋め込み、そこから取り出す形で電気を操作するのだ。帯電器官はあくまで蓄えるだけのため増幅はできない。そのため戦闘における計画的な節電が求められる。


「雷術<結界・錠庫じょうこ>」


 ハダネは手に持つ雷球に電気を注ぎ込む。すると雷球は輝きを放つ。次の瞬間自分たち三人と四体の雷那(いずな)とを囲う立方体の黄色い結界が張られる。これは四体の雷那(いずな)が一般人に襲い掛かるのを防ぐための結界だ。


「雷術<結界・奉鏡ぶきょう>」


 さらに術を行使することでハダネと準備をしている二人の前にそれぞれ一枚ずつ楕円形の鏡面のような黄色味がかったバリアが張られる。これによってこちらに突っ込んできた雷那(いずな)たちの攻撃を防ぎきる。その影からライトが一気に飛び出す。


「雷覇二刀・落雷」


 それはレントが単独行動で使ったのと同じ技。違うのは手に持つ刀の数。二刀を振り下ろすことで狼型の雷那(いずな)を真正面から三枚おろしにする。さらにそこから雷那(いずな)の体内にある雷核と呼ばれる雷が拳くらいの大きさに結晶化した心臓部を真っ二つにした。

 ちなみに雷核とは雷那(いずな)の心臓部でありながら脳の働きもするもので、雷那(いずな)の魂といって差しさわりないほどの重要機関である。雷の色と同化しているため目視が難しいが、どのへんにあるかというセオリーはある程度確立されているため見つけるのは案外簡単である。今回の狼型であれば前頭付近にあるのが一般的である。


「一体討伐完了。ってヤバッ。」


 大見得切って一体を討伐したまでは良かったものの、その後の動きを全く考えずに動いたため、左右から襲い掛かる雷那(いずな)に対して対応が遅れる。


「見事にこっちの予想通りに暴走してくれるわね。『雷銃曲射・八填』。」


 明らかな隙を見せたライトの両脇から襲い掛かる二体の雷那(いずな)を四本ずつ計八本の雷線が貫く。それはミズナが両手に持つ二丁のショットガンから放たれていた。スレンダー美女の見た目をしたミズナが持つにはあまりに武骨で可愛げがない。黒光りする銃身から放たれた攻撃も銃弾ではなくレーザー。それがライトを避けながら雷那(いずな)だけを確実に仕留める。


 一方残り一体になってしまった雷那(いずな)は一瞬で仲間がやられたのを見て逃げようとする。しかしハダネが張った結界によって逃げ道を塞がれてしまっている。


「隙あり。『雷覇二刀・飛雷』」


 動くに動けなくなった雷那(いずな)に向かってライトが追い討ちをかける。標的から離れた位置から二振りの刀を雷那(いずな)に向かって振りぬくことで電撃を纏った飛ぶ斬撃が雷那(いずな)を正面から斬り裂き、的確に雷核を捉えた。それがとどめの一撃となりこの戦いは決着となる。


「これで一件落着、っと。」

「一件落着じゃないわよ。いつも言ってるでしょ、突っ走らないでって。あなたがレントあのバカに憧れてるのは知ってるけどあれはマネしちゃいけない類のやつだから。あなたはあなたに合った戦い方をしなさい。」

「そうよ。私がフォローしなかったらあなた今頃死に体だったわよ。今回ぐらいの相手なら本当はあなたと副隊長ハダネだけで余裕だったのに。」


 結果的には大きな被害は出なかったが、もっと工夫した戦い方をすればミズナがフォローする必要がなかったのも事実。なにより問題だったのは今回の戦いで使った電気量である。


「あなた今の一戦で電気残量三割きったんじゃないの?ちょっと見せなさい。」


 そういってハダネは半ば無理やりライトの服をはぐ。胸元を見える形に服を脱がすとちょうど心臓がある位置に正方形のシルエットの精密機械のようなものがある。そこには上部に電気残量を表示したモニターと下部に差込口のようなものがある。これが操電師(ブライター)になる者たちが共通して体に埋め込む帯電器官で、差込口に専用の充電器を差すことで直接充電できる。


「はあー、生き返るー。」

「充電しても快楽ホルモンは分泌されないわよ。」

「とにかく、ちゃんと計画的に戦わないと後悔するのは自分よ。今は私たちがフォローしているから何とかなってるけど、レントあのバカみたいに一人で戦えるようになりたいなら考えて戦いなさい。」

「でも、やっぱり派手に戦って派手に敵を倒したい。そしてみんなにヒーローだって言われたい。」

「うんうんそうだよな。やっぱり俺みたいに颯爽と現れて万事解決するヒーローになりたいよな。」

「「「えっ。」」」


 ハダネによる説教タイムに突入しようとしたとき、レントがいつの間にかライトの背後で腕を組んで頷きながら会話に参加していた。とても遅刻してきたとは思えない堂々っぷりである。あと戦ったあとまっすぐ来たため見事に全身汚れている。


「遅刻魔隊長、じゃなかった泥豚さん。あなた今までいったいどこで道草を貪り食ってらしたんでしょうか。」

「ふっ、ヒーローは遅れてやってくるのさ。」

「肝心の敵がいなくなるまで遅れてくるのはただの職務怠慢だよ、アホ隊長。あとあなたが喋るほど副隊長の怒りゲージが爆上がりするからあと一世紀半くらい黙っててくれると助かるよ。」


 ハダネからのシンプルな毒舌を意に介することなくかっこつけるレントだが、ミズナの追い打ちで心が折れる。


「だってしゃーないじゃん。目の前で襲われそうな人いたら助けるじゃん。で、これでも頑張って急いだのに終わってるじゃん。これでも頑張ったよ、たぶん。」

「そもそも町ブラして肝心な時に自分の隊を率いれないダメ人間が言い訳してんじゃねーーーーー!!」


 ハダネの堪忍袋の緒が切れた。それから地獄の説教タイムが雷光真衆(スパークル)の本拠地に戻るまで続き、その間ライトは怯え続けミズナは沈黙、唯一バイクに乗っていなかったレントはハダネのバイクに縄でつながれ、引っ張られながら説教を受けるという拷問をされるのだった。そのときのハダネの般若の面がレントの夢に出てくるようになるのはまた別の話。決してトラウマじゃないもん(本人談)。

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