第5話 初戦の審査結果

 また対戦相手プロキシマ・ケンタウリ側の投球になる。

 プロキシマ・ケンタウリ系を映したディスプレイに注目。

 惑星が激しく回り始める。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 こうして見ると、プロキシマ・ケンタウリは割と小さい。その星系の中では一番大きいことに違いないけれど、惑星よりちょっと大きい程度だ。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 星はなぜ回るのか。これまで考えたこと無かったけど、言われてみればこのため以外に思えなくなってきた。理由があるから星は回っているんだ。星が丸いのも意味があるから丸いんだ。全てのことがこの祭に繋がっている。

 星たちはこの祭のために何億年も特訓しているのか……

 宇宙は時間の尺度まで果てしない。

 ぐるぐる回っている星の中から、一つが射出された。

 流れ星が見えた。あ、そういえば今、地球はプロキシマ・ケンタウリ系にいるんだっけ。

 全体が見えるディスプレイを探す。見付ける。それを覗くと、射出された星が太陽系に到着するところだった。

 何光年か駆け抜けた星が、太陽系のどれかを狙っている。

 今回、どの星が狙われたのか。

 ある程度進んでくると、残りの軌道が予測できる。

 これは、この軌道は……

 秀将は固唾を呑んで見守る。

 狙われた星が分かると、全員が静かになる。

 射出された星だけをアップにしたディスプレイに目を移すと、ちょうど衝突が見られた。

 今回狙われた星は……

 大きな輪がトレードマークの、土星だった。

「ああっ……!」

 惑星同士が激突するので、やはりというか。

 輪が欠けてしまった。

 そう、これを予想して、みんな激突前に静まり返ったのだ。

 そして予想通り、輪が欠けてしまった。

 土星自体は軌道が変わっただけだ。相手の星が小さかったこともあり、星の傷も浅い。

 しかしあの立派だった輪が視力検査のCみたいになってしまった。

 そこかしこから悲鳴が上がっている。恐らく天文ファンの皆さんなのだろう。天文ファンでなくとも、これは衝撃だから頷ける。

「何てことだ……土星の輪が……」

 徳丸は両手で頭を抱えている。

 秀将は慰めの言葉が必要だと思った。

「回っていればまた輪が復活するかもしれませんよ」

「そうだね」

「そうそ……え?」

 てきとうに言っただけなのに、と秀将の方が驚いてしまう。

「衝突したことで輪の材料が供給されただろう? 何百万年かしたら今より大きな輪になるかもしれない」

 秀将には言っている意味がよく分からなかったが、とにかく大丈夫そうだと理解した。宇宙って不思議だ。わけ分からないことだらけだ。

 その後も太陽系とプロキシマ・ケンタウリ系で互いに投球し、投球タイムが終わったようだ。

『投球タイム終了です。次は審査タイムになります』

 リプレイが流れるディスプレイもあれば、現在の星系をドアップにしたディスプレイもある。

 秀将はこれまでに起こったことが凄すぎて気持ちが落ち着かない。

 いったい何があったんだっけ……

 まず、寝ようとしたら謎の空間に瞬間移動させられた。

 この空間はどうやら地球の外が見える。

 地球が星系輪舞祭なるお祭に参加すると言い出す。

 対戦相手が決まる。対戦相手はプロキシマ・ケンタウリという隣の星系。

 対戦が始まったら、太陽系は木星を投げた。

 ……何かどれをとってもぶっ飛んでいる。

 どれ一つきちんと消化できないまま、あれよあれよという間にここまで来てしまった。

 ……いや、逆に。

 逆に、それくらいでなければ駄目だったろう。自分がいつの間にか死んでましたと発表されても、受け入れられない。そこを深く考えている暇が無かったからこそ、何とかなっているのだ。

『審査結果が出たようです!』

 対戦というだけあって、勝ち負けが存在するらしい。

 しかも、相手の星系をより芸術的にした方が勝ちとか、言ってなかったっけ。

 というか、審査員は誰なのだろう? 謎だ……

 大きなディスプレイが現れる。そこでは派手なイラストが動き回る。

 どちらなのか。

 太陽系か。

 プロキシマ・ケンタウリ系か。

 しばらく焦らされる。

 どっちだ。

 どっちなんだ……?

 ディスプレイの映像が切り替わる。

 そこには太陽系が映し出され、CGの花火がドドドドッと咲いた。

『我々の勝利です!』

 ホログラムの紙吹雪が乱れ飛ぶ。

 ファンファーレが盛大に祝いを奏でる。

 これには秀将も嬉しくなった。

 この祭がそれほど分かっているわけではないけれど。

 けど、地球が、そして太陽系が何かで勝利したのなら喜ばしいことだ。

 指笛が鳴らされたり、拍手が起こったりしている。

 徳丸が拍手しながら祝福の言葉をかけようとしていた。

「おめでとう地球! いや地球さんと呼ぶべきか……? だが地球さんというのも……加賀美君、何と呼んだら良いと思う?」

「いやいきなり言われても……」

 地球に呼びかけたことが無いので思いつかない。普段地面に向かっておーい地球さーんとか呼び掛けていたらだいぶアウトだろう。ということで、どう呼んだら良いか想像もつかない。

 地球をどう呼んだら良いか?

 普通に地球で良いのではないか?

 …………いや、待てよ。

 それは人に対しての呼び方じゃない。自分達のいる所、要は場所として指し示す時の呼び方だ。

 地球に意思があって、その存在に呼びかけるならちょっと事情が変わってくる。

 人に対して呼び掛けるようなつもりにならなければ。

 ……とはいえ。

 とはいえ、良い呼び方は浮かんでこない。

「んー、いやー、無理ですね良いのが思いつきません」

 それを聞いているのかいないのか、徳丸は顎を撫でながら、空中に向かい問いかけた。

「地球よ、あなたをどう呼んだら良いのか?」

『私のことは地球ちゃんと呼んでください』

 返事があった。

 徳丸も秀将も、目が点になった。

 地球ちゃん……

 まさかのちゃん付けだった。

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