飲んだくれ『勇者』と社蓄『勇者』の異世界冒険記~ブラック企業勤めの俺が異世界で社蓄辞めて金髪のオカマイケメン勇者とバディ組みました~

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鯱黒行太郎《しゃちくゆきたろう》

スーツ姿で身を装い、とぼとぼとうつ向きながら夜道を歩く男、鯱黒行太郎しゃちくゆきたろうはIT系のブラック企業勤めの会社員である。


行太郎の人生は、そのどこにでも居そうなその見た目と同じく、平凡そのものだった。

普通の家庭に生まれ、見栄を張って一浪して入った、そこそこな大学で三年間を過ごし、最後の一年の入社試験で「どこそれw」「で、そんな君が出来ることってなに?」と当たり前な質問を投げ掛けられ、答えられなくて、今に至る。


晴れて唯一内定した会社がブラック企業で、行太郎は毎日のようにペコペコと頭を下げながら


残業、残業、デバッグ処理、残業、残業、デバッグ処理。を繰り返した。


それを永遠と思える程繰り返して、今日は何日目だったか、行太郎は思い出せない。


ピーーーーー


光が見える。黄色くて眩しくて片目を閉じる。行太郎は平凡な顔面を庇うように手をかざし、


退かれて死んだ。


◇◇◇


(あれ?どこだここ)


『お前さんは死んだんじゃよ』


(うえっ!なんで俺の身体スケスケなの?もしかして…し、死んでる?え、えっ…)


『別に意識あるんじゃから死んでないのと一緒じゃし、慌てるでない』


(あんた…だれ?)


周りは真っ白な空間の雲の上、前にはちゃぶ台に肘をついた白髪伸ばしの長老みたいな奴が鼻くそほじって座ってる。ちなみにその老人の後ろに本棚が見える。


『口のなっとらんガキ…じゃあないの…えと、鯱見たいに跳ねるあれ…なんじゃったかな』


(社蓄の事?)


『そうそれ、鯱黒しゃちくくんじゃったな』


(う、うん?ん?喋れないのに喋れてる?)


『君、今幽霊状態じゃからな。ま、意識だけ浮いとるみたいなもんじゃ』


(随分と適当なじじいだな)


『じじい言うな。最高神様じゃぞ』


(はいはい。それで?その最高神様が何のようで俺みたいな奴に話しかけてるんですか?)


『あ、それ、それ、忘れてたわ。お前さんに謝らなあかん』


(?)


『お前さんが死んだのは前方不注意の自業自得じゃけどな。

けど、ワシにも責任があるっていうか…本来の寿命よりも早く死んじゃったっていうか、ま、ごめん』


(えー、なにそれ)




『ごめんで済む問題でも無いし、仕方がないからお詫びに選ばせてやろうか思うてな。転生か転移どっちがいい?』


(は?)


『じゃから転移か転生どっちがいいって聞いとんじゃ』


(説明が足りてないんですけど、その、転移とか転生ってどういう…)


『ん?アニメとかマンガとかラノベとか読まん感じ?しらん?それで、異世界に転移したり転生したりする作品がぎょーさんあるんじゃけど』


(いや、そうじゃなくて…マジですか?)


『マジじゃ』


(えー。まじかー)


『色々思念飛ばすのやめてー。君の人生の後悔とか知らんし、気持ち悪い』


(ひ、ひどい…あああああああああ)


『今さら泣かれてもワシ困るわ』


(………とりあえず、転移で)


『泣き止むの早ない?鯱君、情緒不安定?』


(神様、転移でお願いします)


『その真意は?』


(まだ、やり残しがあります)


『なにそれ…ワシマジ気になる』


(女の子と付き合いたいです!)


『ほえぇ。なんじゃ、君童貞くんか…そりゃ、そりゃ、うん。わかった。いいよ。女の子と付き合おう!ワシも応援しちゃる。陰ながらやけれども』


(じゃあ、とりあえずお願いします)


『ん、ちょっと待って。転移特典として一つだけどんなスキルでも叶えられる権利みたいなもんがあるんじゃが、どう?何か欲しいのある?』


(えー。何ですか、このマクドナルドのメニュー表みたいなの…)


『ええから、はよ決めて。あんまり長いこと居たら意識まで消えてまうんじゃから』


(えーと。じゃあ、この一番大きい見出しのビックマックじゃない、勇者で)


『わかった。勇者じゃな、じゃあ。ま、頑張って。いってらっしゃい』


(え、ちょっと待って。まだ、色々聞いておきたい事が……)


そこで俺の意識は途絶えた。

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