第3話 日本にて・その3 ――ヴォーカル・アンサンブル――
アマチュアの合唱団では経験できない、高い水準の音楽。色々と楽しい出来事はあったが……。
面白いことに、僕が最も「楽しい!」と感じたのは、全体で作る音楽よりも、少人数のアンサンブルだった。
各パートから2名ずつ、全部で8名から構成される臨時のアンサンブル・グループ。そのグループが、毎月の小さなコンサートで1ステージもらって、2曲ほど歌う。
合唱団としての週2回の練習日とは別に、8人だけで時間を作って集まって、曲目を決めるところから始めて、コンサートまでに仕上げるのだ。指揮者の先生などが関わらずに、自分たちだけで。
あくまでも臨時のアンサンブル・グループなので、メンバーは毎回異なる。一種の修行の場のような意味もあり、トップレベルを除いた中堅以下から構成される形になっていた。
上の方の人からコンサートの楽屋で「次回のメンバーは君と君」と指名されたり、数日後にメールで知らされたりなので、本当に時間は1ヶ月しかない。本業の仕事が忙しい人はあまり指名されず、まだ学生だった僕は、頻繁にアンサンブル・グループに入れてもらっていた。
各パート2人という少人数で作る音楽。最初の日は、楽譜を持ち寄って演奏曲目を決めるくらいまでで終わることが多かった。実際に合わせて練習するのは2回目以降となるのだが……。
いざやってみると、これが驚くほど楽しい。
セミプロの合唱団のメンバーからなるアンサンブル・グループだから、みんな上手い人だらけだ。ただし、あくまでも『セミプロ』であって、プロの音楽家ではない。そうしたメンバーが指揮者抜きで作る音楽だから、ともすればバラバラになりそうなものだが……。
「ここは、こう歌った方が面白いよね」
「ここは、こう歌いたくなるよね」
「楽譜には書いてないけど、きっとこうだよね」
歌っていると、自然に音楽の方向性が一致する部分が多かったのだ。ある意味、同じようなレベルだからこそ生まれる音楽だったのかもしれない。自分たちで音楽を作っていく楽しみだった。
各パート2人というのもミソだったのだろう。通常の合唱でもパート内で音楽を――音そのものだけでなく表現などを――揃えることは大切だが、これが『2人』となれば、少しの違いでも顕著に表面化してしまう。だからいつも以上に、パート内で合わせることが必要だった。
もちろんパート内だけではない。他パートともよく聴き合わなければ、全体の音楽が一つにまとまらない。全体を一つにまとめる指揮者がいないからこそ、聴き合うことがより重要になってくるのだった。
まさに『合わせて
このアンサンブル・グループの話は、ひとつの事例に過ぎない。もちろん他にも様々な経験があり、セミプロの合唱団は、僕にとって天国と言えるくらい、音楽を楽しめる環境だったが……。
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