雪那の家の外。


「ただいま」

「お帰り」

「けっこんしてください」

「断る」

「俺が好きだって言った」

「ああ」

「いとおしいって言った」

「ああ」

「まだ俺は雪那の庇護対象でしかないのか?」

「………分からない」

「俺たちが望んでいるからくれたんだろ。言葉を」

「………ないとは言い切れないが、確かに私の言葉だ」

「だったら。この上なく嬉しいけど。ならどうして結婚を了承してくれないんだ?」

「犯罪を駆逐する為に身を捧げると決めた。だから結婚はしないが、おまえたちにもし何か起きた場合には優先して対応をする」

「別に構わないって言っても?」

「だめだ。おまえには日の下で紗綾みたいに笑っていてほしい」

「笑える」

「武兵」

「貪りたいわけじゃない。ずっと隣に居てほしいわけじゃない。ずっと笑っていてほしいわけじゃない。変わってほしいわけじゃない。身を捧げると決めた道を進んで行けば良い。ただ。ただ、雪那がほしい」

「………傷をさらけ出せと言いたいのか?」

「違う」

「弱った姿を見せろと言いたいのか?」

「違う」

「抱きたいのか?」

「分からない」

「今までと何が違う?」

「分からない」

「………結婚する気があるのなら、私は、私でない人間と結婚してほしい」

「俺は弱い?」

「違う。弱くない。強い。この家に居る事がその証だ」

「………なら、長期戦を挑む」

「武兵」

「盲目になっているわけじゃない。もし。万が一。雪那の他に結婚したい相手ができたら、きちんと紹介する。家も出る」

「………変わらなくて良いと言ったが、私はおまえたちと一緒に過ごして変わった。だからきっと、おまえも変わる。早めに頼む」

「いーやーでーすー。確かに変わる部分もあるでしょうが変わらない部分もあるんですー」

「ああ、そうだな」

「………雪那。老衰で死ぬって言ったんだよな」

「ああ」

「それ以外の死は認めないからな」

「私自身が認めていない。病でも事件でも事故でも自然相手でも死ぬ気はさらさらない」

「っあーもう!闘うぞ!」

「ああ。どれだけ強くなったか楽しみだ」

「ばかっ。ばーか」

「知っている」












(2021.11.3)


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