萬咲と雪那

『桜火国』のどこか。




「救急隊が来るからもう少し辛抱しろ」

「いてっ」

「起き上がるな。そのまま寝転がっていろ」

「おんぶか、姫様だっこ。俵運びでもいいぞ」

「すべて片付いている。ここから早急に離れる必要もない。それに骨が折れている可能性が高い。下手に動かさない方が良い」

「あ~、はいはい」

「こんな事件なんか追っていなかっただろう。日常茶飯事の温かい新聞を出していたはず。今回は死なずに済んだが次はどうなるか分からない。手を引け」

「無理。追いたくなった。知りたくなった。書きたくなった。知らせたくなった。どんだけ胸糞悪くなろうが。こんなもん知りたくなかったって幻滅されようが。今は足を止めたくない」

「変えられないならせめて護衛を雇え」

「じゃあ、護ってくれ」

「私の今の任務は犯罪者の捕縛だ。護衛するとしたら熒様だけだ」

「はいはい、どこまでもつれないやつ。まあ、俺も死にたかないからな。護衛は雇うさ」

「紗綾と仁科をあまり悲しませないでほしい」

「どの口が言ってんだか」

「私は強いが、おまえは弱いだろう」

「強かろうが弱かろうが、傷つく時もあれば、不意に死ぬこともある」

「強ければその確率は下がる」

「でも、おまえの強さは下げる為のもんじゃないんだろう。あいつらを護る為のもんだ」

「そうだ」

「自覚あんのに、何でこんな深淵に居んのかね」

「ここを望んだのも私だ。戻ることを選んだのも。ずっと。強くなっていく。なり続ける為にも。多分。必要だ」

「俺は。俺も追っかけ続けるさ」

「かち合った時は安心しろ。すぐに片付ける」

「名は伏せろ。とは言わないんだな」

「必要ないだろう」

「ああ。こわい、こわい」








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