熒と颯天

『桜火城』にて。




「お初にお目にかかります。白石颯天と申します。本日はお招きいただきありがとうございます」

「桜火熒です。よろしくお願いいたします。って、とりあえず挨拶は済ませたから、堅苦しい態度は取らなくて良いわよ。お見合いだもの。少しでもさらけ出しましょう」

「では。まず気になっている事を一つ質問しても良いでしょうか?」

「ええ。良いわよ」

「雪那さんの提案で今回の分不相応なお見合いが実現したのでしょうか?」

「いいえ。雪那から聞いたあなたの話は、一緒に旅をしたという事だけで、他には一切ないわ。お見合いは私が提案したの。市井で語り弾きをしながら、困り事の相談相手になっているあなたに会ってみたかったから。ああ、でも、澄義から聞いているわよ。競国家勢力の先導者ですって?」

「はい」

「へえ。私の前で何の衒いもなく肯定したって事は、おままごとじゃないのね」

「名乗った当初は。あなたに会う為だけの口実という割合が大きかったんですが。雪那さんの事件が起きて、何も止められなかった自分を突き付けられて、深く顧みるようになりました。他国を渡り歩くようになってからは、本気でこの国の為に。前を向いて歩けるような希望を常に提示、補佐できるようになりたいと思っています」

「ふ~ん。なるほど。ねえ。私、公に発表しない形でならあなたと結婚しても良いと思うのだけど、どう思うかしら?」

「どう思うと申されましても。出会ってから五分ほどしか経ってないんですが」

「ええ、そうね。あ。断っておくけど、興味を持って調べていく内に好意を抱いたとか、実際に会って一目惚れしたとかじゃないから」

「ではどうしてですか?」

「結婚はする。子どもは産む。できれば私と異種で国を本気で想っている人としたい。あなたは城に居るより市井の中で暮らした方が良い。公に発表したら面倒が増えそう。以上の理由からよ」

「公に発表しない方が面倒が増えそうですが」

「私事の秘密は魅力を向上させると思うし、結婚してから相手を知っていけば良い。もしかして、実際に会って話したら想像と違うって幻滅したかしら?」

「いいえ、まさか。いつだって一目惚れです」

「ありがとう。で、返事はどっちかしら?」

「もし保留にしたとしたらどうなりますか?」

「今返事がもらえないとしたら、私から取り下げさせてもらうわ。先程の条件は私の願望であって、どうしても必要じゃないから。他のお見合い相手と結婚する。本当は私と結婚しない方が良いとは思うの。多分、私が足枷になる」

「俺が足枷になります」

「いいえ、ならないわ」

「………俺は競い相手になりますか?」

「そうなってほしい」

「………正直、現実味がなさ過ぎるのに。同時に重圧も感じます。嬉しいのに、怖い。矛盾していますよね」

「いいえ。考えてくれている証拠だもの」

「はい………熒様」

「はい」

「お慕いする気持ちと。あなたの傍らで、あなたから離れた場所で、国を支えたい気持ちを持って、求婚を受け入れたいです。あなたに結婚を申し出たいです」

「はい。よろしくお願いします」

「はは。は。口から贓物が全部出そうです」

「これから何度も味わう事になるわよ」

「はい。承知の上です」

「じゃあまずはお互いの呼び名から決めましょうか。私は颯天君が良いのだけど」

「じゃあ、俺は。熒様で」

「熒ちゃんじゃなくて良いの」

「もう少し。時間をください」

「良いわよ」







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