第7話 君を助けたい

 松明もなく真っ暗な洞窟を、メロを背負い俺はただひたすら走る。


 自分に括り付けられたロープをただ辿っていけばいい。それに出口まではほぼ一本道だったはずだ。

 メロが案外軽くて助かる。だけどメロの背からは大量の血が滴って、俺の腕を濡らす。メロはぐったりとして何の反応もない。はやく、はやく城に戻らなければ。


 魔物は倒せなかった。まだ瓦礫の向こうで生きている。いつ瓦礫を突破してこっちに向かってくるか分からない。

 俺は流れ込む汗でにじむ目を瞬いて、とにかく走った。

 酸素を求めて心臓が爆発しそうだ。でも止まるわけには行かない。がむしゃらに走った。



 洞窟を出ると外は嵐だった。

 土砂降りの雨に、甲高い声を上げながら荒れ狂う風。空は分厚い雲で覆われゴロゴロと雷の音がする。

 ここまで乗ってきた馬の姿はない。つないだロープがほどけてしまったのだろうか。まあいい。どうせ俺は馬に乗れないんだ。


 俺は駆け出した。城に向かって。


 滝のような雨で前が見えない。本当にこの方向で合っているんだろうか。でも走るしかない。メロが、メロが死んでしまう。

 頭が重く、くらくらして、息が苦しい。まだ熱が完全に下がってなかったのか。もっと速く走りたいのに体が思うように動かない。

「あ」

 何かに躓き頭から転ぶ。メロを背負っているので手が出ず、そのまま泥水に突っ込むように顔を打ち付けた。

 くそ、はやく、はやく城に帰りたいのに。

 立ち上がらなくては。

 メロが死んでしまう。立ち上がらないと。立て、立てよ!



(ルイス様は、お優しい方です)

(ルイス様、僕がいますよ、僕は、ルイス様のそばに)



 メロ、死ぬな。死なないでくれ。


 ずっと俺の傍にいてくれ。





「なんだあれ」

「泥まみれだぞ、乞食か?」



「……頼む、し、城に入れてくれ……メロの、手当を……」

 

 俺は城の前で力尽き倒れ、這いずりながら門番に縋った。


「汚ねえな、あっちいけよ」

 門番は素気無く、持っていた槍で俺をつついた。

「頼む、俺は、ルイ……」


「おい、何をしている?」


「あ、エリオット分隊長!」


 エリオットは倒れている俺の頭を手荒く掴んで、顔を上に向かせた。「!……ルイスか?」


「エ……エリオット、頼む、メロを、手当してやってくれ。俺はどうなっても……いい、から。頼む……よ」

「へっ。お前の馬だけ戻ってきたからとっくにくたばったと思ったぜ。つまんねえの」


 エリオットは俺の脇腹を容赦なくブーツの先で蹴った。

「ま、腐っても王子のお前を助ければ俺の評価になるか」


「エリオ……たのむ……」


 そこで俺の意識は途絶えた。 

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