第2話 ひとりぼっち
ここここ国外追放!? ま、まさかそう来なさるとは思わなかった……!
「お待ち下さい父上、ご冗談ですよね、国外追放だなんて。そんなこと出来るわけ……」
「私は国王だ。私の一存でどうにでもなる。お前は我が国にとって百害あって一利なし。よって国外追放だ」
体の力が抜けていく。俺はその場にへなへなとくず折れた。国外追放になんてなったら生きていけない。
「父上、どうかご慈悲を……」
俺は無礼を承知でみっともなく父上に縋りついた。父上は無情にも俺の手をパーンと払いのけた。そんな……。
「お前の数多き恋人に助けてもらったらどうだ? しかし、まあいいチャンスをやろう。この国の西にある洞窟を強い魔物が寝床にしているらしい。近隣の村に被害が出ている。その魔物を倒したら国外追放は見送ってやる」
「本当ですか!?」
俺は突然元気になって立ち上がった。
やった。兄上か、友人のエリオットに同行してもらおう。剣の腕が確かな二人が一緒なら、なんとかなるはずだ。なんだかんだいって父上優しいじゃん!! やっぱり息子の俺が可愛いんだな。
「分かりました。準備しますので失礼いたします」
俺は余裕たっぷりに王の間を後にした。父上のそんなにうまく行くかな、という冷めた笑みを俺はそのとき理解できていなかった。
王の間を出たところで誰かにぶつかってしまった。
「誰だ、こんなところで邪魔だ!」
俺は思わず怒鳴りつける。俺の世話係の少年メロだった。
「も、申し訳ありません、あの、ルイス様に事付けを預かってまいりました」
長い前髪で顔を隠したメロは、おろおろとその場に跪いた。
「なんだ、俺は忙しいんだ、早く言え」
「はい。フィリア様が体調がすぐれないので今日はお会いできないと」
「なんだ、そんなことか。分かった、下がっていいぞ」
最早フィリアなんてどうでもいい。それよりも、俺は第一王子である兄上を探した。
兄上は思ったとおり国の蔵書室にいた。本ばかりで陰気くさいこの場所によく兄上はいる。
「兄上、探しておりました、実はお願いがあるのです」
俺の四つ年上の兄トーマスはいつものように穏やかな笑みを浮かべて俺を迎えた。
「どうしたルイス、何か困りごとか」
「はい。実は……」
俺は恥をしのんでさっきまでのいきさつを兄上に話した。俺の不利になる情報はうまく隠して理不尽な条件を突き付けられたと訴えた。
「国外追放……」
兄上は驚いたようにビン底眼鏡の奥の目を見開く。俺はすかさず、
「兄上に洞窟まで一緒についてきていただきたいのです。俺一人に魔物退治など無理です」
殊勝な態度でお願いした。
俺は自慢じゃないが今まで剣をほとんどふるったことがない。女にもてるため筋トレはしているが、剣の練習はあれこれ理由をつけてサボっているため、自分の剣が今どこにあるか分からないくらいだ。
「そうかルイス、国外追放か。それは……」
兄上は眼鏡をくいと押し上げた。穏やかな笑みが般若のようになって、
「ざまあみろだな、バーカ!!」
と怒鳴った。
「あ、兄上!?」
「お前、俺が何も気づかないとでも思ったのか? 俺の婚約者であるフィリアに手ぇ出しやがって!」
げっ。ば、バレてる! フィリアはだから午後のデートを断ったのか!?
「魔物でもなんでも食われちまえ。お前なんか弟でもなんでもねえよ! あばよ、せいせいした」
そ、そんなー!!
まさかの展開だ。あの地味でぼんやりした兄貴にバレてるなんて。確かに悪かったけどあれはフィリアの方からかなり積極的に迫ってきて……、ま、まあいい。俺の親友、騎士団のエリオットに洞窟にはついて行ってもらおう。
「自業自得だろ、うすらトンカチ! 俺はお前が王子だから仲良くしてやっただけだ、国外追放になるんだったらもうお前に用はない。じゃあな、この女ったらし」
エリオットは俺の話を聞くなりそう吐き捨てた。俺の不祥事をおさめにいったり、俺の別れ話の調停役をするのはもうまっぴららしい。
「お前なんか親友でもなんでもねーよ、さっさと魔物に八つ裂きにされてこいこのドラ息子!」
兄と親友に罵声を浴びせられ、俺は放心状態になった。なんだよこれ、俺って、実は一人ぼっち?
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