第50話 操り人形 ロックの見せ場でラッキーは……

「あっ……パトラが……」


『立てロック! まだ戦いは終わってない』


 俺の頬を涙が伝い落ちる。




「ラッキーだって……パトラが……」


『しっかりしろ! パトラは大丈夫だ!』


 ラッキーは俺を励ましながらオークを咥え弾け飛ばす。




「何が大丈夫なんだよ!だってパトラが……」


 俺の目から涙が止まらない。


 もう……目の前が何も見えない。




「パパー!」


 どこからか声が聞こえる? でもどこにも姿は見えない。空耳……が聞こえる。




「パパー!!」




「えっ……?」


 空耳じゃない。確かに聞こえる。


 でも辺りを見回してもパトラの姿はない。




「パパー上だよー」


 パトラを乗せたワイバーンが俺の目の前に降りてくる。


 ワイバーンの足元にはミサエルが捕まえられていた。




 でも途中で耐えられなくなったのか、ワイバーンは高さ2mくらいからミサエルを落とした。


 そしてミサエルの上に着地した。




「ふげっ」




 ミサエルは気絶をしているようだ。




「パパーごめんなさいー死んじゃいそうになったーワイバーンくんが助けてくれたの。パパー泣いてるのー?」




 俺はパトラを強く抱きしめる。




「パトラ、俺の方こそ悪かった。危うくお前を死なせてしまうところだった。生きててくれて良かった。ワイバーンありがとうな」




 ワイバーンはいつのまにか箱庭から飛び出してきたらしい。


 ワイバーンが生まれた時からパトラとガーゴイルくんが世話をしていたから、パトラを守るために飛び出してくれたのだろう。俺の誰かと叫んだ声にワイバーンも反応してくれていたようだ。




「パトラこれを飲め。腕は大丈夫か?」


「パパ―腕が痛いからー飲ませてー」




 パトラはそう言いながら俺を抱きしめてくる。


 痛いと言いながらもいつも通り手を動かせているからな。




 でも、俺は気が付かないフリをしてパトラを抱きかかえて回復薬を飲ませてやる。


 今日のは特別甘い梨で作った上級回復薬だ。


 それに、補助魔法もたっぷり重ねがけしておこう。




「パトラはここで待ってるんだよ。俺がパトラをいじめた奴ら全員倒してくるから」


「パパー大丈夫だよーそれより、他のワイバーンも出してあげて」


「他のも? いいけど。ワイバーン出て来い」




 ワイバーンたちが出てくる。


 どうするつもりなのかと思っているとオレンジアントたちがワイバーンの上に乗る。




「パパーの魔法だとワイバーンたちも高速で飛べるのーみんな行くよー」


 パトラが指揮を取るとオレンジアントたちは3体ワイバーンたちに乗り空に飛び上がる。




 ワイバーンたちは上空からアンデットたちを斬りつけ、弓矢を放つ。


 アンデットたちは近くの者に襲い掛かるようになっているのか、上空に向かって手を伸ばしている。




 オレンジアントとワイバーンのその姿はまるで小さな竜騎士だった。


 オレンジアントEだけはワイバーンではなく、ガーゴイルくんに乗り攻撃をしている。




『ロック、私たちも片付けよう』


「あぁ、俺たちは騎士団を相手するか」


『あいよ』




 アンデットの魔物たちはパトラたちに任せておけばいいだろう。


 俺とラッキーは騎士団を片っ端から殴りつけていく。




 ラッキーの攻撃はかなり強いけど……大丈夫だよね?


 ラッキーが足で騎士団を弾く度に、鎧が弾けて二度と使い物にならなくなっている。




 あとで弁償とかって言われたら困るけど……消耗品だから仕方がないよね。




 騎士団を正気に戻していくと、団長が俺たちの前に立ちはだかってきた。


「君たちは何で僕の邪魔をするのかな? 僕はこの国を強くするためにしているんだよ。騎士団は冒険者よりも必要なんだ。冒険者なんて必要ない。だからね。君たちに邪魔されちゃ困るんだよ」




 騎士団長はブツブツと何か話をしてているが、誰に向かって話しているのかわからない。




「いい加減にやめよう。もう終わりにしなくちゃいけない。だってそうだろ? 僕はタイタスより優秀なんだ。そうだろ。タイタスなんてただの冒険者の長じゃないか。それに比べて僕は王国騎士団の団長だ。だから負けてなんていない。なのになんであいつは、みんなに慕われているんだ。うん、うん。そうだよね。あいつがいなくなれば僕が一番だ」




 騎士団長は剣を抜き、近場にいた冒険者へと斬りかかる。


 意識が混乱しているとは思えないほど、しっかりとした剣筋だった。




 俺は冒険者を守るために団長の剣を受ける。


「邪魔をするならお前から殺してやる」




「そうか。俺も怒っているんだ。パトラを怖がらせたことも、街中でこんなに暴れていることも。正気を取り戻させてやる」




 騎士団長の顔面に俺は思いっきり拳を放つ。


 拳が当たる瞬間、ラッキーが勢い余って騎士団長へ突っ込んできた。




 思いっきり空を切る拳。


 この拳……どこにぶつければいいんだ!!




 俺の見せ場!




『悪い! わざとじゃない』


「ラッキー狙っただろ」




『断じて違う。別に誰が倒してもいいだろ? そうかっかするなよ』


「別に誰が倒してもいいけどさ」




 ラッキーにふっ飛ばされた騎士団長は操り人形のように立ち上がる。


「ラッキーの当たり所悪かったから動きが変だよ」




『何を言ってるんだ。あれは元からだ。ギルドの時もあんな動きしてただろ』


「いや、絶対にしてない」




「フハハハ! 私の操り人形に攻撃が当たったのを感知して音声を繋いでみたら、このアンデットの集団を前にふざけていられるなんて、あなたたち冒険者って相当頭が悪いのね」




 その声は騎士団長から発しているものの、騎士団長の声ではなく若い女性の声だった。




「誰だ! お前が今回の事件の黒幕なのか!?」




「えぇそうよ。聞いて驚きなさい。私の名前はリディア。あの伝説の大賢者ドモルテの一番弟子であり意志を継ぐものよ」




 騎士団長を操っていたのはドモルテの弟子を名乗るものだった。


 ドモルテに会って事情を聞いているせいで驚きも半減だった。


 それにしても自分で裏切っておいて、師匠の名前を騙るなんて、太々しい奴だ。


―――――――――――――――――――――――――

パトラ「竜騎士になったの」

ワイバーンに乗り誇らしげだ。

ロック「良かったな」


オレンジアントEがガーゴイルくんに乗っている。

ロック「ガーゴイルくん……」


それ以上何も言えなかった。


もしよろしければ♥よろしくお願いします。

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