第36話 アイザックへの処罰と新しい依頼
アイザックが俺が手ぶらでやってきたのを見て勝ち誇っていた。
「残念だけど、お前に謝る必要はないよ。それよりさっさとそれ納品したらどうだ?」
「フン! 負け惜しみを言ってられるのも今のうちだからな」
アイザックが受付に今回の依頼品を納品する。
受付はもちろんリッカさんだ。
「冒険者パーティーグラエラより、虹色トンボの羽20枚、オレンゴの卵30個、新緑のエメラルド15個が納品されました。ロックさんの方はもう大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「事前にロックさんより、飛竜の鱗30枚、爪10本、虹色トンボの羽60枚、オレンゴの卵90個、新緑のエメラルド45個が納品されていますので、この勝負ロックさんの勝ちとなります」
「なっなにを言ってるんだ。こいつらは俺たちよりも後からでて、新緑のダンジョンにだって俺よりも後からついたのにそんなことができるわけないだろ! 不正だ! これはギルドが仕組んだ罠だ! 俺は認めないぞ!」
エミーとカラは唖然としながら事態の流れを見つめていた。
アイザックだけは現状を受け入れられないのか、大声で叫び暴れている。
「悪いなアイザック。俺はお前の幼馴染でずっと仲間だと思ってた。だからある程度のことは許してきたけど、お前この前本気でシャノンの顔潰そうとしただろ。それに俺だけじゃなくカラまで見捨てていったし。結局俺がお前を甘やかしていたのがいけなかった。すまない。だから今回は幼馴染だと思わず全力をださせてもらった」
「ふざけるなよ。何が全力だ。お前みたいなのは一生荷物持ちがお似合いなんだよ。こんな卑怯な方法で勝って面白いのか?」
「卑怯? 何を言ってるんだ? アイザックが納品したのはこの街の露店チヨウシノで買ったものだろ?」
「なっ何を言ってるんだ。俺はちゃんと魔物を倒して手に入れてきたんだよ」
アイザックの声は先ほどまでの威勢のいいものから、段々と弱くなっている。
昔からアイザックは嘘が苦手だ。
特にこういう大事な場合では。
俺がチヨウシノで買ったのをなぜ知っている。
そういった驚きが顔にでている。
「なるほど。じゃあなんで、この虹色トンボの羽にはチヨウシノ村特産ってわかるように、Tの字が入っているんだ?」
「ふざけるな。そんなのは入っているわけが……」
「リッカさん確認してみてください」
リッカさんが虹色トンボの羽、オレンゴの卵、新緑のエメラルドすべてを確認すると、そこには小さくTの文字が刻まれていた。
俺は、アイザックたちがこれらの商品を買うことを知っていた。だからわざとキャベツと一緒に並べてもらっていた。
「お前らの財布はほとんど空だろ? ギルドの買い取り値段の3倍で買っていけば、あっという間に金はなくなるからな。パーティーの財政状況は俺が全部把握してたから、どれくらいの値段なら買うのかも手に取るようにわかってたんだよ。わざわざパーティーの資金でギリギリ買い占められるように、調整もしたしな」
新緑のダンジョンでアイザックたちと会った時に、シャノンがわざと俺に商品を王都で買うように言ってきたのも仕組んでいたことだった。あの時シャノンは俺にこう言った。
「ロックさん、それなら王都に戻って依頼品を買って報告しましょう。負けないことが一番です。別に割高になってもいいじゃないですか。私、街の外れで売っているの見ましたよ」
あの時点で俺たちはもう買う必要もないくらいの在庫を持っていた。
あれを聞いたアイザックはこう思ったはずだ。
街で依頼品が売っていた場合に買われたら負けてしまうと。
それに、あの時点でアイザックは俺がギルド依頼の品をまったく手に入れていないと思っていた。だからもし、王都で現物をすべて手に入れておけば俺を依頼失敗に追い込めるはずだと。
欲をかかなければ無駄に金を失う必要はなかった。
「嘘だろ。どうやって、あのダンジョンに俺たちより先に行ったっていうんだ」
「お前ら全員地図をちゃんと見てないだろ。前にもお前らに提案して却下された案だが、王都クロントから新緑のダンジョンまでは商業都市を経由するよりも直線で行った方が早いんだよ」
「私は覚えてたわよ」
カラは平然とそっぽを向きながらそう言う。
「なんでそんな大事なこと知っていたのにお前は言わないんだよ」
「はぁ? なんでわざわざ汚い森の中なんて突っ切らなきゃいけないのよ。馬鹿じゃないの?」
「これは……S級の冒険者でいるための試験だって……ロックに勝ちたくなかったのかよ」
「ロックに勝ちたいのはあんただけでしょ。私を見捨てたあんたに協力をする必要はないわ。残念でした。あんたの独りよがりプレイには本当に飽き飽きしてたのよ」
アイザックはもう諦めたかのように地面に膝をつく。
カラ、それ以上いうと本当にアイザックが立ち上がれなくなるぞ。
パーティーで行動する場合に、何か一つ特化していればいいというわけではない。
剣が使えるのも、魔法が使えるのも、傷を回復させられるのも、パーティーの中の一つの役割でしかない。目に見えない雑用だとか、補助とか、本当はそういったところの方が大切になってくる。
アイザックにも、このパーティーを影でまとめていくのがどれほど大変だったか少しでもわかってくれればと思う。
当事者意識がなくついて行くだけの頃には見えていなかったのが、少しでも見えてくれればうれしいものだ。
「あぁそれとアイザック、ゴブリン退治ありがとな。ちょうどチヨウシノ村の人が困っていたから助かったよ。わざわざシャノンに騒ぎをおこさないようにワイバーンの鱗と爪とりに行かせたかいがあった。でも、これもチヨウシノ村から依頼があって金が払えなかったのをギルドが救済するためにいかせたんだろ?」
リッカさんは苦笑いしながら頷きはしないが、否定をしないというのが肯定していることと変わらなかった。
本来ならそんなことはやってはいけないことだが、俺たちの混乱にギルドが乗ったということだろう。結果的に俺は村から報酬をもらっているので問題ないが。
ギルドも抜け目がない。
村に着いた初日、俺はシャノンたちにワイバーンの爪と鱗の回収を依頼していた。
ワイバーンの爪と鱗は別に倒さなくても回収してくることができる。戦闘になることが多いというだけで、見つからずにいけば抜け替わった爪や鱗などは普通に落ちている。
ゴブリンに見つかって騒がれるとワイバーンにも気が付かれる可能性があったのでシャノンたちには隠れながら行ってもらった。見つかって戦闘になるかとも思っていたが、シャノンは無事にやりとげてくれた。さすがエルフといったところか。
アイザックたちは絶対にワイバーンを狩らなければいけないと思っていたようだが。
「俺たちにはゴブリン退治くらいがお似合いってことか。お前が俺をどう思っていたかよくわかったよ」
「アイザック……お前が何を言おうが最初に俺を切り捨てる判断をしたのはお前だし、お前はシャノンやカラまで傷つけようとした。自分の行動が周りにどれだけ迷惑をかけているのか、影響を与えるのかもう一度よく考えた方がいい」
「うるさい。お前のお説教なんてもう沢山だ。おい受付、それで俺はどういう処分になる?」
そこにはいつの間にかギルド長タイタスさんがやってきていた。リッカさんの替わりにギルド長がアイザックの質問に答える。
「アイザックくん、君は優秀だと思っていたのに非常に残念だよ。今回の件をギルドは非常に重く受け止めている。S級のパーティーというのは、みんなの見本にならなければならない。それなのに仲間内で殺し合うなんて言語同断だ。この1週間でキッドくんが全部白状したよ。君がロックくんがダンジョン内で事故にあえば、席が一つ空くとか臭わせていたってことをね」
「クソッ……」
アイザックはそれ以上言葉を発することはなかった。
臭わせただけで、指示はしていないがアイザックはそこまでして俺を排除したかったらしい。
「ただ、キッドくんだけの証言ではかなり怪しいところもある。そのためアイザックくんには取り調べを受けてもらい、その後処分を言い渡す。他の2人も話は聞かせてもらうので、そのつもりで。ダンジョン内での出来事は事故なのか事件なのかの判断は非常に見極めづらい。でも、そもそも事故が起こりそうなダンジョンに無理をして入ってはいけないのはE級冒険者でも知っていることだ」
アイザックは肩を落とし黙ってタイタスさんの言葉を聞いている。
「ロックくんにも後で話を聞かせてもらうからね」
それから別室で全員が別々に聞き取り調査があったが、アイザックはおおむね認めているということだった。
エミーとカラについては俺を見捨てたというのはあるが、それは冒険者であれば命の危険はあるものであり、見捨てる判断も必要というのがあるという現実がある。
ただ、仲間が仲間を攻撃していたのを、見過ごす行為は、非道であり、無罪放免とはいかない。個人ランクがC級へ降格となった。
S級パーティーであるグラエラは解散となり、エミーとカラはもし可能ならもう一度組みたいと申し出があったが、それは丁重にお断りさせて頂いた。
カラとエミーはお互いを信じて、もう一度2人でパーティーを組みやり直すとのことだった。
アイザックは何とか奴隷落ちは避けられたものの、半年間の鉱山勤務へ行くことになり、もし冒険者になるとしても、再登録でE級から始めるしかないということだった。
そして俺たちは、また新しい依頼を受けることになった。
それは王都内で多発している目撃者のいない窃盗事件の調査依頼だった。
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ラッキー「新しい冒険楽しみだな」
ロック「期待してるよ」
ラッキー「それで私はいつE級冒険者になれるんだ?」
ロック……諦めていなかったのか。
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