第26話 『フハハハ。よほど世間知らずのようだな。私に風魔法を放つとは』

 俺の身長の1.5倍くらいある大きな動く石像はラッキーを追い抜き回り込む。


 俺たちを乗せていたせいで逃げるのに少し遅れてしまったようだ。




 ラッキーは気を使えて本当に優しい子だ。


 その動く石像はガーゴイルと呼ばれる魔物だった。




 動かなければ石像のように見える。


 俺たちを追い抜いて立ちはだかってはいるが攻撃をしてくる気配はない。


 ん? むしろまた泣きだした。




「うぇーん。なんで逃げるんだよー。僕だって好きでこんな怖い顔してるんじゃないんだよー」




 大丈夫か? 情緒不安定な年頃なのだろうか。


 そんなことを思い声をかけようとするといきなり攻撃魔法を放ってくる。


 風を圧縮した風魔弾だ。




 それに反応したのはラッキーだった。




『フハハハ。よほど世間知らずのようだな。私に風魔法を放つとは』


 ラッキーがシッポを大きく振るう。




 目の前に複雑な魔法陣が浮かび上がる。




 えっちょっとラッキー加減できてる?


 いや、これ絶対にダメなやつだ。




 俺たちの先、ガーゴイルより奥には俺たちがきた王都がある。


 この方向でこの魔法はまずいだろ。




「ラッキー! やりすぎだ!」




 ラッキーの魔法は……キャンセルできそうにない。


 俺の魔法で相殺するか。




 ガーゴイルの前に立ちラッキーの魔法を弾くために魔力を込める。


 俺の本気でも相殺するなんてことはさすがにできない。




 ラッキーにとっては本気ではないのだろうけど、加減を本当に覚えてもらわないとそのうち俺が死ぬ。




 ラッキーも魔法を途中でキャンセルしようとしたのか、ほんの数秒俺が魔力を溜める時間を稼いでくれる。


 俺を中心にラッキーの魔法が二つに分かれ森の木々がなぎ倒される。


 王都まで届かなかったがやりやがったな。


 俺の両手には激しい痛みが走る。




 全部を弾くことはできなかったか。




 激しい土煙があがり一瞬視界が消える。


 土煙が晴れると、シャノンの影に隠れて伏せの状態で頭を前足で押さえているラッキーがいた。チラッと前足の隙間から俺の方を見てくる。




「ラッキー、シャノン怪我はない?」




「あっ私は大丈夫です。ラッキーさんも」


 シャノンもかなりビックリしたのか膝が笑っている。




「なら良かった。シャノンもビックリしているようにラッキーの魔法は災害みたいなもんだからね。王都に魔法が届いたら、俺たち反逆罪で一生追われる身になっちゃうから気をつけてね。ほら隠れてないで出ておいで」




『ごめんなさい。ちょっと加減をミスった』




「うん。ちゃんと謝れるのはいいことだね。だけど本当にラッキーの力はみんなよりも強いわけだから、ちょっと調子に乗ったのが俺やシャノンを傷つけることもあるからね。今回は俺がいたからいいけど。力は使い方で守る力にも壊す力にもなるから。ぜひその判断ができるようになって欲しい。だってラッキーはとっても優しい子なんだから」




「ロックさんその傷」


 俺の腕からは魔法を弾ききれずにできた傷でかなり出血していた。


 力を込めて握ってみる。




 大丈夫だな。神経まではいっていない。




『ロック……ごめんよ』


「大丈夫。これくらいの傷ならすぐに回復するから」


「ロックさん! それすぐに止血しないと」




 自分の鞄から回復薬を取り出し一気に服用する。


 久しぶりに回復薬飲んだけど、はちみつ味で結構美味しい。


 回復薬のおかげで傷は一瞬でふさがっていく。




 かなり出血したが、フェンリルの魔法を弾けたのはかなり幸運だった。


「ラッキーおいで」


 ラッキーは俺のところへ来て傷があった所を舐めてくれる。




「ラッキーが俺たちを助けてくれたのは本当に嬉しいよ。だから今度は力の抑え方や、戦い方とかを一緒に勉強していこうね。ラッキーも大丈夫?」




『クゥーン。私は大丈夫』


 ラッキーが俺の顔に頬をすり寄せてくる。


 あとでブラッシングしてあげないと。




 ラッキーの目には涙が溜まっている。


 本当に優しい子で俺も嬉しくなる。




「ならよかった。ほらラッキーそんなんで泣くなよ。俺は大丈夫だからな。そう言えばラッキーに喧嘩を売ったガーゴイルは?」


 ガーゴイルを俺たちの方を見ながら小刻みに震えていた。




 俺と目が合うと大声で叫んだ。


「こっこの! 化け物め!」


「いや、ガーゴイルに化け物って言われたくないわ。それよりも何でお前は泣いてたんだ?」




 ガーゴイルの側まで行くとガーゴイルが震えている。


「大丈夫だ。落ち着け。お前が攻撃してこなければこっちからは攻撃しない」




「ほっ本当か?」




「わかったと思うがお前を殺すつもりならラッキーだけじゃなく俺も、シャノンも単独で倒すことができる。それくらい実力差があるのにわざわざ嘘を言う必要はないだろ?」




 シャノンだけはなぜか首を横にぶんぶん振っているが、シャノンならこんなガーゴイル余裕だろう。




「たっ確かにそうですね。僕は魔王城で生まれたガーゴイル量産型です。でも、僕は余った材料で作られたって話で、100年前からずっと前線にでることもなく魔王城の掃除担当をしていたんです。だけど最近魔王城の幹部が変わってガーゴイルも世代交代をするって言われてクビになってしまって。掃除するだけのガーゴイルなんていらないって。先代の魔王様はとてもいい人だったので、役に立ちたかったのに僕は結局何もできませんでした」




 ガーゴイルはかなり落ち込んでいた。


 魔王城の幹部の交代って魔王城でなにか変化があったってことだろう。


 実家の村は魔王城の近くなので心配になってくる。




「それでずっと森の中を彷徨って、山を越えてこの先の村にたどり着いたらいきなり攻撃をされて、逃げてきてあそこにいたらすごく悲しくなってしまって。別に怖い顔って僕が作ったわけじゃないんですよ。僕ってなんのために生まれてきたんだろうって」




「別にそんな怖い顔には見えないけどな。どちらかというと俺はカッコイイと思うぞ。ただ、人間の村は排他的なところもあるからな、いきなり魔物が現れたら攻撃するのは仕方がないよ」




「そうなんですね。僕ずっと掃除しかしてなくて人間と会うの初めてだったので、そのあたりのことには疎くて」




 それにしても100年も掃除だけを担当しているガーゴイル?


 そんなのがいるのか?




 昔魔王の側近が村に迷って来た時にガーゴイルは魔王軍の先鋭部隊だと言われていた。


 失敗作だとしてもかなりの力があるはずだ。


 それなのにあの風魔法なんて一般人レベルの力だった。


 だから掃除担当だと言われればそうだが……。




 そんなことを考えながら、俺は二つに分かれて弾け飛んだ魔法で抉れた森から目を背けた。


 見なかったことにして先を急ごう。




 こんなのがばれたら怒られる。


 そう言えばこの先に村があると言っていた。




 地図上にはそんな村はなかったはずだ。


 ちょっと行ってみるか。


―――――――――――――――――――――――――

ガーゴイル「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ」

ラッキー「手加減はちゃんとした」

ロック「あれくらいはじくくらいはな」


ガーゴイル……化け物ばかりだ。もう魔王城に帰りたい。


いよいよ明日2巻が発売です!

目印は可愛い人魚

本があなたがくるのを待っています。

お気に入りの書店へGO!

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