第14話 さよなら勇者
その冒険者は一度冒険者ギルドに戻ってきた時にラッキーをみてフェンリルだと言った男だった。
「俺はかつて漆黒の槍というA級パーティーを組んでいたものだ。そのエセ勇者と組んだのが運のつきだ。あの時俺が勇気をもって告発していたらこんなことにはなっていなかった」
「お前なんて俺は知らない。全然身に覚えはない。いったい何を言っているんだ?」
キッドが慌てふためきながら全力で否定し始める。
「知らないんですね。でも過去の調査記録などを調べればすぐにわかりますので」
リッカさんは毅然とした態度でキッドへ向かう。
「こいつは俺の仲間を全員滅火のダンジョンで魔物の囮にしたんだ。俺はあの日斥候をしていて1人で10階層でギルドの前で寝ているあのフェンリルを見たんだ。あの時は灰色狼だと思ったけどな。それを報告に仲間の元へ戻ると仲間たちが魔物に襲われていた。今でも俺は忘れられない」
男は重く低い声で叫ぶようにいった。
「こいつは俺の仲間を切りつけ魔物の囮にして逃げ出したんだ。それのせいで俺の仲間は……あの時俺は怖かった。こいつの勇者という肩書も、王都へのコネも。たかが冒険者の言うことと勇者の言うことなら誰が信じると言われたらもう反論ができなかった。すまない。俺がしっかりとしていればこんなことにはならなかった」
ずっと一人で誰にも相談できずに悩み続けていたのだろう。
ラッキーのこともきっと調べていたに違いない。
だから灰色狼ではなくフェンリルだと一目でわかったのだ。
「勇者さんにどれだけのコネがあろうともう言い逃れはできませんね。前回のことは証言だけとはいえ漆黒の槍のメンバーからの直訴がありますし、今回のは証拠もあります。大人しく捕まってください」
「クソ! こんなパーティーに入ったがために」
「何言ってるんだ? 被害を受けたのは俺たちの方だ。お前のようなエセ勇者と組むなんてな」
一つ何かが違っていれば本当にこの国を代表となるパーティーになっていたはずだ。
そこに俺がいなかったとしても。
でもここまできてしまうと後はもう冒険者としてもやっていくことができないだろう。
「まぁいい。こんな自称S級パーティーなんてこっちから願い下げだ。それに身に覚えのない理由でギルドに捕まるのもな。道を開けろ」
キッドが剣を抜き、キッドを囲んでいた奴らに剣を振るう。明らかに牽制のような感じで斬りつける。全員が一瞬距離を取る中で漆黒の槍の元メンバーへは殺意を持った動きで斬りつける。
口を封じるつもりだ!
俺はその剣の動きを見逃さなかった。剣を抜き切りかかるキッドの剣を受け止める。
「やめろ。これ以上罪を重ねるな」
「使用人風情が俺に語るな。俺はこんなところで終わる男じゃないんだよ」
キッドは一度距離を取ると周りにいた冒険者たちに斬りかかる。
どれも致命傷になる傷ではないが……。
派手な出血の割に死ぬ傷じゃない。怪我人を増やすことで足止めを狙ったようだ。
勇者なのにやることが汚すぎる。
近くにいた冒険者が斬り付けられ距離をとる中、キッドはその混乱に乗じてエミーを人質にとった。
「やっ……やめて」
「道を開けろ。俺の功績が理解できないこんなクソギルドなんて俺の方から願い下げだ」
「これ以上罪を重ねるな。今なら戻れる」
「うるせぇ! 道を開けろっていうんだ」
タイミングを見計らい飛び込もうとするがキッドの剣はエミーの首をいつでも落とせる位置にある。隙ができるのを待つしかない。
キッドはゆっくりとエミーを盾にしたままギルドの入口まで進んでいく。
このまま逃がすわけにはいかない。
「残念だったな。お前らなんかに捕まえられる俺じゃないんだよ。冒険者なんて他の街へ行ってしまえばいくらでもやり直せる。絶対に逃げきってやるからな」
「わかったからエミーを放せ! もうギルドからでれば人質はいらないだろ」
「うるせぇこの街を出るまで逃げ切れば放してやるよ。お前ら動くなよ」
このままギルドに捕まってしまえばかなり重い罰を受けるだろう。
勇者とはいえ下手をすれば犯罪奴隷になってしまう可能性だってある。
犯罪奴隷になってしまえばもう表の社会に戻ってくることはほとんどない。
でもだからといってこんなやり方は汚すぎる。
ゆっくりとギルドの入口からでていくキッド。
「じゃあな馬鹿ども。もう次は魔物の餌にされないように気を付けろよ」
冒険者ギルドからキッドとエミーがでた瞬間外からボフッと大きな音が聞こえてくる。
あの野郎いったい何をやりやがった。
ギルドの入口へ走っていくと、そこにはもうすでに伸びているキッドとシッポをブンブンと振っているラッキーの姿があった。
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ラッキー「やっと私の無双伝説がはじまるわね」
ロック「それよりこないだ犬って言われてたぞ」
ラッキー「えっ……犬……絶対に許さない。誇り高きフェンリルに向かって。怒ったカンナ。許さないカンナ……」
ロック「まぁ落ち着けって。それ以上はダメ」
ラッキー「でも評価してくれたら今回に限り見逃してやってもいい」
ロック……ラッキーの評価へのこだわりがすごい。
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