第10話 カラ視点。裏切りへの代償。

 私はなんてことをしてしまったのだろう。


 小さな時から一緒に育ってきたロック。




 ずっとロックはなんでもできて、私たちを引っ張っていってくれていた。


 でも12歳のあの時からすべてが変わってしまった。




 あの適正職業を告げられたとき私たちの関係は少しずつ変わっていった。


 全員がこのパーティーなら本当に世界一を狙えると思っていた。




 でもロックの聖獣使いという職業は聖獣を捕まえることができなければ活躍できなかった。


 いや、本当は今考えればロックはよくやっていてくれていたんだけど、適正職業で力を発揮していなかったから私たちはそれだけを見てロックを見下していた。




 でも聖獣がいないということで、すべての頑張りを無視していた。


 今までロックはなんでもできていたってことが余計に私たちに優越感を与えてしまった。


 ロックは私たちより何でもできたのにいつも優しく応援してくれていたのに本当にバカだ。




 みんな心のどこかでロックにはかなわないと思っていた。


 ロックはアイザックと互角以上に剣を扱い、エミー以上に魔法を使えた。そして悔しくて認めたくないけど私が成長できたのはロックのおかげだった。




 私たちは小さな田舎の村で育ったからこそ、親たちからは比べられまわりの目が怖かった。


 こんなこと今さらだけど本当は3人とも心のどこかでロックが変わらず優秀だったことを知っていると思う。




 だからこそ、このパーティーがS級と言われるまでになってもいられたし、今までロックをクビになんて話はなかった。




 でも、あの勇者が加入するということで一気に流れが変わった。


 勇者とは数少ない国から認められた職業だった。勇者が私たちのパーティーに加入となれば私たちのパーティーも一流になれる。




 その中で聖獣のいない聖獣使いは足手まといでしかなかった。


 この世界では適正職業であることに価値を見出されることが多い。




 適正職業でない職業ではどんなに優秀でも、そこそこの評価しか得られないからだ。




 私たちは小さな自尊心を満足させるためにロックのいないところでロックをパーティーから外すことを話しあった。




 そして今回のダンジョンが私たちがこの国でもトップクラスへのパーティーへとなったことへの証明であり、ロックとの最後の冒険になるはずだった。




 私は常に余裕があるようにこんなダンジョンクリアして当たり前と言った感じで言っていたが心の中では不安でいっぱいだった。




 だって私にできることはみんなのサポートだけで実際はロックの劣化版でしかなかったのだから。適正職業についているからといって適正職業じゃない人間より技術が上になるのかというのは色々議論をされているが、私はロックを見ている限り努力次第で変わってくると思っている。




 でも、その事実も私たちは見ないようにしていた。


 私たちはロックの話を次第に無視するようになり、誰もロックの話をまともに聞かなくなっていた。




 私たちはそれのせいで大きなしっぺ返しをもらい窮地に陥った。


 今まで10階層までこのダンジョンを降りて行った人間は誰もいないと言われている。




 なんの情報もない場所へ行く場合にはもっと慎重にならなければいけなかった。


 どこかで楽観的な考えがあったのは間違いない。




 いつのまにか私たちは何でもできる万能感に襲われ、なんの疑いもなく伝説を作っていくそう思っていたが、まさか10階層であんな化け物がいるなんて思わなかった。




 あれは普通の魔物じゃない。軽く吠えただけであの威圧感。私はアイザックが逃げると言っている前から逃げ出そうとしていたが腰が抜けて動けなかった。




 そんな私を助けてくれたのがロックだった。


 ロックは私を頭の上に担ぎ走ってくれた。




 あれだけ疲労が溜まっていた中で私を見捨てるという選択肢だってあったはずなのに。


 私は本当にバカだ。




 そんな助けてくれたロックに私はドレスの心配なんてしていた。


 さらにロックを私たちは切り捨てた。


 心のどこかでロックなら後から追いかけてきてくれると思っていたのもあった。




 どんなにロックが強いとはいえあんな化け物に勝てるわけはないのに。


 ロック本当にごめんださい。




 そしてやっぱりその決断は間違いだった。


 私は気が付いていなかったが弱いものから切り捨てられていくってことは次は自分の番だったってことを。




 私たちは苦戦しながらも5階層までなんとか上がってきていたが、段々と動きが悪くなり実はロックが力を与えていてくれたのを知らなかった。




 いや知らなったんじゃない。私たちがロックの話を聞かなかっただけだった。


 4階層までいけばダンジョンの難易度はかなり低くなる。でもあと少しというところの5階層でオレンジアントの群れに遭遇してしまった。




 オレンジアントは次から次へと仲間を呼んでいくやっかいな魔物だ。


 今の私たちでは倒している間に仲間を呼ばれて突破できるか正直怪しいところだった。




 まだ気が付かれてはいない。キッドからの指示がある。




「聖女。全員を回復させろ。そのあとアイザックが先頭、次が魔法使い、聖女で俺が殿を務める。そしたら一気に駆け抜けるぞ。この階を抜ければあとはかなり楽になる」




 キッドの提案を受け私は全員を回復させる。


 これでほとんど魔力はない。出来てあと3回。全員を回復することは無理だ。




「よし行くぞ!」




 キッドの掛け声で順番に駆け抜けていく。途中でオレンジアントに気が付かれるがこの距離なら全員が逃げ切れるはず。大丈夫。私だってS級冒険者の一人なんだから。そう思った時、背中が急に熱くなる。私のローブが真っ赤に染まる。




「やっぱり足手まといから犠牲になってもらわないと。俺はこんなところで死ぬわけにはいかないからな。それにこっから上は回復とかいらないからな」




「あっ……」




 私は思いっきり顔から地面に転ぶ。痛い、痛い、痛い、痛い。


 転んでいる横をキッドが走り抜ける。




 アイザックは私の声を聞き一度後ろを見るがそのまま走り抜けた。


 エミーだけは一瞬ためらい手を差し出そうとしたが、その手をぎゅっと握り走り出すともう振り返ることはなかった。




「ねぇみんな嘘でしょ。お願い助けて 私を置いていかないで」




 私の声は3人には届かず、そのかわりにオレンジアントたちが私に気が付いた。私の血の臭いに反応するかのように私のまわりへやってくる。




 このままじゃダメだ。逃げなければ。私だって聖女としてそれなりにやってきた。


 急に身体に力が入る。なんとか壁際まではっていく。




 自分への回復魔法は効果が薄いが、それでも出血を抑えるくらいはできる。


 あとはオレンジアントから少しでも時間を稼げるように聖霊結界魔法を自分のまわりに展開する。




 これで少しは時間を稼げる。


 でも時間を稼いでどうする? 時間を稼いだところで誰も助けにきてくれない。




 オレンジアントは私の結界をカリカリと削っていく。結界を大きくすれば距離もたもてるけど、その分長くはもたなくなる。




 至近距離にオレンジアントの顔を見るのは非常に気持ちが悪かった。


 だけど、最後まで考えなきゃ。生き延びるために私の魔力では勝てない。




 ジリジリとオレンジアントの攻撃により結界魔法は削られていく。


 このままだとじり貧だけど打つ手がない。




 ロック本当にごめんなさい。あなたにしてきたことは決して許されるわけではないけど。だけど本当に後悔しています。




 もし次会えたら二度と裏切るようなことはしない。


 都会はおしゃれな洋服ばかりあったせいで聖女としてよりも、女の子として頑張ってたけどちゃんと魔法の訓練もします。




 だからごめんなさい。もう二度と会えないってわかっているけどロック……助けて。




 目の前でカリカリと結界を削っていたオレンジアントの目が黒から赤に変わる。


 あっ……私終わった。完全に敵認定をされた。




 オレンジアントの耳障りな警告音を聞きながら私は目を強く閉じそしてそのまま意識を手放した。


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ラッキー「今回出番ないんだけど」

ロック「そういう時もあるよ」

ラッキー「ほら私が出番ないと評価みんないれてくれないじゃん?」

ロック「どこかその自信がやってくる!?」


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★★★

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