第三章 「天狗山」


随分と山を登った。


途中で曲がる道などもなくただひたすら一本道を進んだ。


すると右手の方からボウと青白い光が見えた気がした。

私は内心かなり驚いたが、声を上げずにそっちの方をライトで照らす。

しかし木々のせいであまり奥まで見えない。


気のせいか…。

口にだすとせっかく雰囲気に慣れてきたところに水を差すようになるのを避けたかったため私はそっと心の中でだけ呟いた。


「確か道を進むと屋敷があるって話だったな。そこに長浜さんは入って

行方不明になったとか。」


私は自分の脳みその中の引き出しという引き出しを開けて昔の噂話を思い出しながら言った。


「ふっ、本当に天狗の住む屋敷があるならお邪魔してみたいものだ。」


最初は緊張のせいか黙って歩いていたが、徐々に夜中の山に慣れていき口数も増えていった。


道は少しづつ開けていき、一人しか通れなかった幅も今では横に並んで歩けるほどになっていた。


すると目の前に長い階段が現れた。

100段はあるだろうか、階段の両脇には上まで提灯がずらりと並んでいる。

突然、両脇一番手前の提灯の明かりがポッと点いた。

それから手前の方から順に提灯の明かりが点いていき、まるで私たちを階段の上まで誘っているようだった。


私たちは何も言わず顔だけを合わせ、そして互いに頷き

階段を一段、また一段と登る。

登る度に両脇の提灯は私たちに合わせて一つ、また一つと明かりが消えていった。


階段を登りきると明々と点いていた提灯はすべて明かりが消え、後ろを見ても

暗闇しか残っていない。


前を向くとまた一本道が続いており、先には何やら明かりが見える。

恐る恐る明かりの方へ進んでいく。


真ん中あたりまで進むと明かりの正体が目で見えた。

そこには赤い鳥居がポツンと建っている。鳥居の両端には灯篭があり、

その灯篭の淡い明かりが鳥居の不気味さを余計に際立たせている。


鳥居上部の真ん中には「天狗屋敷」と書かれている。


「うそだろ…狐にでも化かされているのか…?」

織田は鳥居を見上げたまま言った。


息を殺し、目を開きっぱなしで階段を登ったせいか

又は今私たちの目の前にあるこの鳥居に圧倒されているからか

織田の声を久しぶりに聞いた気がした。

ついさっきまで鼻で笑いながら話していたというのに。


鳥居の奥を見てみるとそこには屋敷らしき建物が見える。


「奥に屋敷があるぞ。」


「どうしてこんな山奥に屋敷が…」


徐々に己の鼓動がはやくなっているが嫌でも分かる。

両手が汗で湿っていく。

私たちはこの目の前に広がる不思議な光景に魅入られている。


ゆっくりと鳥居をくぐり、敷地内にはいる。

敷地内は夜中だというのに少し霧がかかっていて、それが一層屋敷の不気味さを

醸しだしていた。

耳を澄ますとケタケタと何かの笑う声のようなものが聞こえる。


心なしか周りの気温と自身の体温も少し下がっている気がする。

ゴクリと唾をのみ、互いに目を合わせ無言で屋敷に近づいていく。


ついに、屋敷の前まで来た。

外観は言うまでもなく、古びていて歴史を感じられるほど。

平屋でこじんまりとしていてさほど大きくはない。

屋根は茅葺で覆われていて、いかにも古風な作りだ。


入口の引き戸は3センチほど空いている。

すると中から声が聞こえた。


「お待ちしておりました。」


その声はあまりに嗄れていて、それ故におぞましく、私たちは息をのんだ。


「さぁ、中へ」


嗄れ声と共に引き戸が勝手に開いていく。

開いた先に声の主はいない。


このまま走って逃げだしたいが、足が震えていう事をきかない。

そんな度胸もない。


私たちは己の足を引きずるようにして中に入る。













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