愚王の教育係

真理亜

第1話

 パシーンッ!


 各国の大使を招いての舞踏会場に乾いた音が響き渡る。


「あ痛っ!」


 声を上げたのはこの国の国王バッカーノである。


 そしてその横には、なにやら紙で出来た長い棒のような物を、おもいっきり振り切ったような格好で佇む美女が居た。


 隣国の王家から嫁いで来た王妃リコウリッタである。


「お、王妃様!? そ、それは一体!?」


 目の前で王妃が国王の頭をド突いた場面を目撃した某国の大使が目を丸くする。


「これは東方の島国から伝わったハリセンという物です」


「は、ハリセンですか...」


「はい、主にツッコミをする時に使います」


「ツッコミ...」


「えぇ、陛下が間違ったことを言った時にツッコミを入れるためのものです。叩いた時に大きな音がする割には、叩かれた本人はあまり痛くないという優れ物なんですのよ?」


「は、はぁ...」


「先程、陛下は大使様のお名前を間違えましたから、すかさずツッコミを入れたんですの...」


「そ、そうなんですね...」


「えぇ、なんと言っても私は陛下の教育係ですから」



◇◇◇



 この国は滅亡の危機に瀕していた。


 国王であるバッカーノが毒婦に唆され国政を疎かにし、国民に重税を課したのだ。毒婦の名はビッチーナ。元は国王付きの侍女だった。


 彼女は小動物のような、思わず守ってあげたくなる可憐な容姿を武器にバッカーノに取り入り、次第に篭絡して行った。


 篭絡されたバッカーノはビッチーナに言われるままに、先代の王妃を後宮に幽閉してしまった。そしてビッチーナを側室として迎えた。


 側室となったビッチーナはまるで王妃のように振る舞い贅沢の限りを尽くし、国庫の金を湯水の如く使いまくった。その結果、しわ寄せは国民に向かい、増税につぐ増税に日常生活を送るのも困難な状況に陥った。


 国民の不満は爆発寸前で、いつクーデターが起こっても不思議ではない状況だった。臣下の者達がどれだけ訴えてもバッカーノは耳を貸さなかった。それどころか、諫言を呈した臣下を左遷してしまうという酷い有り様だった。


 そんな状況を元々病弱だった先代王妃は憂いだ。なんとかバッカーノを諌めようと病弱な身を押してバッカーノの元へ足を運んだが、バッカーノが会うことはなかった。


 やがて失意のまま先代王妃が儚くなると、バッカーノはビッチーナを王妃に据えた。ますます贅沢に歯止めが利かなくなったビッチーナを止める者は誰も居なくなった。


 この国はもう終わりだ。誰もがそう思った時だった。


 隣国から第2王女であるリコウリッタが第2妃として嫁いで来ることになった。


 リコウリッタが嫁いで来て間も無く、この国は息を吹き返すことになる。


 


 


 

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