第7話 雪まつりロンリー

 手荷物を前の座席の下にしまい、シートベルトを装着して早々に眠りにつく。離陸で喜ぶ歳でもない。

 と言うのは嘘だ。飛行機の離発着はこの歳になってもワクワクする。ただ、それを共有する人が近くにいないこの状況で、一人口元をゆるめる事が不審者以外の何者でも無い事を俺は知っている。

 と、自分に思い込ませた、底の浅い自己満足のカッコつけだ。


 久々に実家に帰るせいか、今日は一々過去の自分が頭の中を横切った。

 忘れていた思い出がふと顔を出すのは、懐かしくあり、まだ赤色の付いていないリンゴをかじる様な感覚だった。



「ねぇ、どうしたの!!何かした?」


 俺の後ろを歩く彼女が声をかけてくる。表情は見えないが、きっと困った顔をしているだろう。全て俺のせいだ。

 5年生の冬、俺と5歳下の弟。それに彼女と、もう一人同じクラスの女の子の4人で遊んだ。

 その週の日曜日に町内の雪まつりが開かれるので、下見に誘われたからだ。

 会場は広さは50m×50mくらいの大きくはない公園だった。

 とは言え住宅街にある公園は冬場は雪捨て場になるので、積雪量で言えば圧縮された雪が2mは積もっていたと思う。

 始めはバラバラに遊んでいたが、俺が理由なく作った雪玉を雪だるまにしようという事になり、4人で作業する。

 それが終わった後は、経緯は思い出せないが腰まで埋まる雪の中で鬼ごっこを始めた。

 それが凄く楽しくて、ずっと続けば良いと思っていた。

 しかし現実にそんな事が起こるはずもなく、夕方になり、彼女たちが「次で最後にしよう」と言い出す。

 急に現実に引き戻された様な感覚になり、俺はその喪失感と落胆とそれまでの昂揚感が混ざった感覚をを、どう消化すれば良いのかわからなかった。

 だから、勝手に打ちきって家に帰る事にした。


 「帰る。」


 一言声をかけって、後は無言だ。

 突然一緒に遊んでいた友達がそんな事を言い出したら、心配になるのは当たり前だった。

 彼女たちは何回も俺に声をかけ理由を聞き、体調を気遣ってくれた。弟は無言で横を歩いてくれた。

 その場にいる中で、自分だけが自らの行動を咎めていた。


 そんな事があっても日曜日の雪まつりの時は、何もなかったかの様にみんなに混ざって遊び、また彼女たちは普通に接してくれた。

 女子の精神は男子よりも発達が早いと言うが、俺はこの頃どれだけ彼女の寛容さに助けられていたのだろう。

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