DAY 86-2

「どうなってるんだ⋯⋯」

 もう一人の眠る自分を見て、困惑せずにはいられないベレス。


 そんな中、騒がしい複数の足音と共にベレスの居る部屋へと入ろうとする人物達がいました。

 ベレスは気になってそちらへ視線を向けると、なにやら怖い雰囲気の二人の男が、扉を開けて部屋へ入ろうとするカロンを抑えつけていました。

「離してくださいっ! ここに置いていちゃ駄目なんです! ベレスさんと一緒に出ていきますから、通して下さい!」

 力ずくで、何としてでも扉の向こうのベレスを連れて帰ろうとしていたのです。

「か、カロン!」

 嬉しくなってベレスが声をかけますが、予想以上に騒がしいのか、その声は届きません。

 カロンは男を払い除けて部屋へ入るや否や、一目散にベッドの方へ駆け寄りました。

「ベレスさん、ようやく見つけました。牢獄から探しましたが見つからなかったので、随分時間を掛けましたがようやく⋯⋯ベレスさん?」

 声をかけても、頬に手を当てがっても目覚めないベレスに、カロンは不安に駆られます。

 その向こうで立っているベレスには気付いていません。声も向こうからは聞こえていないようでした。

「カロン! 私はここにいるぞ!? カロン!」

 カロンに触れようと頬に手を当てますが、ベレスの手はそのままスルリと空へ抜けていきました。

「つ、掴めない、どうして⋯⋯」

「ベレスさん、どうして眠ったままなのですか、ベレスさん⋯⋯」

 するとローブを着た、さっきの二人の男がカロンの背後から言葉を投げ掛けます。

「その者は目覚め次第、賢者達を招集した評議会に出てもらうのです。そこで、改めて勇者であるかどうか、見極めるのです」

 その言葉は、彼女達にとって永遠に思い掛ける事のないものでした。

「勇、者⋯⋯? な、なにを⋯⋯そんなデタラメな嘘をついて、魔族を利用する魂胆でしょう──」

「いいえ。その者は容姿こそ魔族であれど、身に光を宿し、世界を天翔ける、まごう事なき勇者なのです。発見報告の際にも、ここ最近の出来事の元凶を沈めたとありました。間違いは無いのです、その者は──」

 

 ベレス自身にはもう、掴むことの出来ない言葉でした。

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