DAY 48

 ベレスさんが不在の間にいくつか考察をまとめておく必要がある。


 勇者が何らかの手段で姿を消した事はベレスさんに話した通り、生まれ変わりの泉にて転生が行われたという考えはかなり的を得ているはずだ。


 ここまでは良い、しかしそうなるともう一つの点を考慮しなければならない。

 それは、魔王が娶ったとされる天使についてだ。

 創世録にはこれは記録されていない極秘の情報だ。


 魔王の情報を詳細に書いた書物なんてものは存在しない。

 あるとするならば、物好きが書き留めていた、書物にすらあたらない走り書きのレポートのみ。

 これは、すっかり焼け焦げたパソンレイズン城から拾い上げた物だ。

 ご丁寧に魔族の生態も事細かに記載されている。著者は魔族に相当詳しい人物だったはずだ。

 

 魔族の因子を注入する事により爆発的な身体増強が見込めるという記述や、生き残りの魔族の定期診察の記録は非常に興味深い。

 更に魔王に関しての記載が、ワタシの心を引き立たさせて仕方ない。


 魔王と天使には赤髪の子供がいる事から、種族を越えた契りを交わした天使は、世界を傍観するという本来の役目を放棄した、とそんな記述もある。

 ベレスさんはただの魔族では無いのは薄々感じていたが、まさか天使の血を引いていたとは。

 光魔法が使えるのは天使からの遺伝だろうか⋯⋯光魔法、勇者のみが使っていたとされる、始まりの空の神が与えし産物。

 神も天使に連なる存在である証明だろう、神秘的なその魔法こそ、人でない物のもう一つの証。


 喪失を繰り返すベレスさんは、いつか魔族という種を越えた存在になるのだろうか。


 そうして長い考察をしていると、外から複数の足音がワタシの耳に入ってきた。

 ため息を漏らしてから、その足音の正体をみる為に扉を開ける。


 待っていたのはやはりアルターの警備隊。

 黒い装束を見に纏った奴らは、部外者のワタシの様子を不定期に確認しに来るのだ。

 もう戻る気はないというのに、まだお父さんは諦めていないのか。


 ベレスさんの帰りを待つ為にも、今はここを離れる訳には行かない、さっさと警備隊を排除しないと、面倒な事になりそうだ。

 

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