DAY 29

「アミーとエミルは、けっこん、しないの?」

 騎士の四人と食事を共にしている中、ベレスは隣同士の二人を見てなんとなく言葉をかけてみました。

 ベレスの言葉にエミルはむせ返って、アミーは顔を赤くします。

 

「な、なんだいきなり⋯⋯そんな言葉まで覚えたのか、お前⋯⋯」

「けっこんしきっていうのが、あるんでしょ? どうしてしないの?」

「⋯⋯まだしないだけ、だよね? アミー」

 メアトがアミーに話しかけます。

「う、うん⋯⋯ベレス、良い? 結婚式って言うのはね、私達にとって凄く特別な事なんだよ」

「とくべつ?」

「うん、特別。それを叶える為には、場所を決めたり、日取りを決めたり、人に手伝って貰ったり、色々沢山の事をしなきゃ行けないんだよ」

「とくべつは、たいへん?」

「ああ、確かに大変だ。だが二人にとってそれを叶えるに相応しい夢なのだ、ベレス」

 ガンドゥも会話に参加して、ベレスに結婚式の大切さを説きます。

「ゆめ⋯⋯」

「ベレス⋯⋯お前には何か夢はあるのか? もしあるなら、それがお前の生きていく力になってくれる事もあるだろう⋯⋯」

「こればっかりは本を何冊読んだって分かる事じゃあないんだよね、ベレス」

「う〜ん⋯⋯よくわかんない⋯⋯」

「へへっ⋯⋯おいベレス、分かんねえならよ、俺らの式を見りゃ掴める物があるんじゃねえか?」

 エミルがベレスに対して提案しました。

「⋯⋯いいのかな⋯⋯」

「良いの良いの! まあ、兜を被る必要はあるけど⋯⋯でも、裏で沢山美味しいもの食べさせてあげるからね」

「⋯⋯!」

 食べ物、という言葉でようやくベレスは目を輝かせます。

「やっぱ食べ物がメインになっちゃうか⋯⋯」

 笑顔を浮かべて、メアトは呆れながら言いました。それに呼応するように、騎士たちも笑い合います。

 

 わたしのパパとママは、どうだったのかな。

 笑い合う騎士たちの下で、ベレスはまた考え始めます。


 考えても考えても、その答えは出ませんでした。考えているうちに夜になって、騎士たちとも別れました。暖かい風景の中で過ごすうちに積み重なっていく考え事は、少しだけ枷のように不自由を感じるのでした。

 今日はもう寝てしまおう。そう思って寝室に向かっていた途中、何やら話をしながら歩いているメアトとガンドゥを見かけたベレスは、柱の影に隠れてこっそり会話の中身を聞いてみることにしました。もしかしたら、結婚の事について詳しくなれるかもしれない、そういう好奇心の元、耳を澄ませました。


「メアト、既にもう──は──」

「⋯⋯なら、さっそく明日に──」

 しかし、二人の話し声は小さくて、あまり細かく聞くことは出来ませんでした。

 それに、もう眠くて仕方ありません、ベレスは諦めて、うとうととしながら部屋に戻るのでした。

 そして眠る直前、ベレスはこう思うのでした。


 結婚式の日、あの美味しかったアップルパイを、今度は皆で一緒に食べたいな。


 初めてする幸せな想像で心を一杯にしながら、ベレスは眠りにつきました。

 この短期間で激化していく環境に振り回され続けてきた彼女はこの日、初めてストレスを感じる事のない睡眠が出来た事でしょう。

 

 

 しかしベレスが次に起きた時には、騎士たちの城は炎で覆われていました──

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