魔王桜通信

朽木桜斎

第1話 魔王桜はその部下・朽木桜斎を呼び出す

「ああ、遅刻だ、遅刻。またあのバカ……もとい、魔王桜まおうざくら御方様おんかたさまから、雷を落とされるぞ。やれやれ、ああ、やだやだ……」


 みなさん、はじめまして。


 わたしは朽木桜斎くちき おうさいという者でございます。


 いまわたしは春のそよ風に乗り、山の奥の桜の森へと急いでいるところなのです。


 なぜかって?


 ほかでもありません、わたしの「ご主人様しゅじんさま」から、「呼び出し」をらったのであります。


 魔王桜というのがそのご主人様であって、いわく「あやかしの王」、いわく「魑魅魍魎ちみもうりょうの支配者」、あるいは「宇宙の帝王」……


 などと、自分で名乗っているだけ・・・・・・・・・・・の「救えないバカ」なのでございます。


 自分でそう思っているだけなのですね。


 なんという思い上がり、身のほど知らず、妄想野郎もうそうやろう……


「聞こえているぞ」


「はひぃっ!?」


 あらら、着物の肩口かたぐちに「桜の花びら」が……


「お前の考えていることなど、すべてお見とおしだ。桜斎、貴様はまさか、わたしが作ってやったおんも、忘れてしまったのではないだろうなあ?」


「はひ、はいっ! もちろんでございます、御方様あっ! だからこうして、急いでそちらに向かっているのではありませんかあっ!」


「ふん、どうだか。なんでもよいから、早く来い。わたしは気が短いのだ」


「はい、はいっ! すぐに参ります! いましばらくお待ちを!」


「まったく、どんくさいやつだ」


 ああ、やだやだ。


 どう思います、みなさん?


 あなたがたの言葉で言えば、とんだ「ブラック上司」ですよ!


 このバカはいつも、こんなふうにわたしをこき使って……


「なんだと? 聞こえていると言っただろう!?」


「ひええっ! すみません、すみませんっ!」


「よいから、さっさとんか! もとの朽木くちきに戻してしまうぞ!?」


「すぐに、いますぐにいっ!」


 こんな具合でわたしは、御方様のいらっしゃる「化物ばけものづくしのはら」へと急いだのでございます。

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