第3話 高校生になって親父と一言も話さなくなった
お爺ちゃんが直にとって父親の存在だった
親父はほとんど家にいない
日曜日もだ…
何をしてたかも全く興味がない
お爺ちゃんは釣りを教えてくれた
豆腐や味噌汁の食べ方も真似した
寝るときはお爺ちゃんの横で
明日着ていく服はちゃんと折りたたみ
枕もとに置きなさいと教わった
その通りにした
しかし
高校生になって直は野球部に入り
日曜日も練習で夕方まで帰れない
お爺ちゃんとの時間が減っていき
子供部屋が出来てますます疎遠になっていった
ある時に、お爺ちゃんが頭に包帯を巻いて帰ってきた
会社の人も一緒で、母さんと直は、お爺ちゃんが土木作業中に怪我をしたことを知らされた
幸い大きな怪我に至らず、ホッとした
当たり前の存在がいなくなると思わなかった
その時は…
ある日
野球の練習から帰って家に戻ると
母さんから
「お爺ちゃんが入院したと聞いた」
病状は詳しくわからなかったが
すぐに戻ってくると思っていた
しかし
その数週間後…
母さん「お爺ちゃんが病院で亡くなった」
と聞かされた
直はお爺ちゃんの死の直前も側に居てあげれなかった
ガンだったと聞かされたが
こんなに当たり前にいた存在が急にいなくなるなんて…
直は現実を受け止められなかった
葬式の日、お爺ちゃんが棺に入って火葬される前に久しぶりに顔を見れた…
その場では涙をこらえたが
家に帰り、1人部屋の中で布団をかぶり
思っきり後悔して泣いた
とても泣いた
人生で一番泣いた
お爺ちゃんゴメンよ
直が大きくなって会話が減ったよね
本当はもっと色々な事を教えてほしかったんだよ
大好きだったんだよ、お爺ちゃん!
そして
3年生の進路を決めるときに
とんでもない話を耳にすることに…
直は高校では学年でトップ10に入るほど優秀だった
先生も進学を視野に入れて考えなさいと言われてた、一方、県外からの大手会社からも内定をもらえる可能性もあり母さんと話をしていた時である
母さん「実は、お爺ちゃんは直が進学する為にお金を貯めてたのよ、200万円、でもねそのお金をお父ちゃんがギャンブルで使ってしまったの」
母さんもね、自動車免許を取ろうと思って
30万円貯めてたんだけどそのお金もお父ちゃんに引き出されてしまったの…
と聞かされた
直は呆然として返す言葉がなかった…
お爺ちゃんは、自分の孫のためにせっせと貯めたお金を、自分の息子に知らないうちに使われたのである
どんなに傷ついたろうか…
どんなに呆れただろうか…
どんなに怒っただろうか…
直は親父を殺したくなった
クレジット会社からお金が引き出せなくなったと思ったら、今度は家族のそれぞれの思いを込めた貯金を己の欲の為だけに黙って使ってしまったのだ
泥棒以下だ…
人間失格…
ある日
親父が珍しく晩御飯の時間に戻ってきた
直は当然、怒りを通り越して口も聞かない
そんな時
親父「直、進学するのならお金の事は心配するな」と言われた
はあ
どの口がそんな事言えるんだ
呆れた
泣きたくなった
右手に力こぶをつくり震えた
こんな奴が直の親父なんだ
頭の中で進路をその瞬間決めた
高校を出たら県外に出て就職する!
こんな
嘘つきで…
人に迷惑かけても知らんぷり…
反省の色もなく…
人間失格で…
最低な親父…
側にいたら本当に殴り殺してしまうかも知れない
自分の「親父」であることに恥ずかしくなった
「こいつ」が死んでも一滴も涙は流れないと確信した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます