面倒事 (裏)
side〜藤桜 凛〜
「あれ、あれは…」
偶然、武さんがベンチに座ってるのが見えた。挨拶がてらに話しかけようとベンチに歩いていくと向こう側に私の姉ーー藤桜 鈴がいた。
何故ここに?偶然なのか? そんな疑問を抱えつつ武さんのそばで止まると姉さんも同じように止まった。
「おはようございます、凛さんと鈴さん」
そんなふうに武さんが私と姉さんに挨拶をした。やはり武さんと姉さんは知り合いなのだろう。
「ええ、おはようございます武さん。……と凛」
「おはようございます武さん。……と姉さん」
互いに牽制をしながら挨拶をする。姉さんも表情は薄い笑みで隠してはいるが、仮面が取れればどんな表情が出てくるのか。
「それで武さんと凛はどんな関係で?」
不意に姉さんがそんなことを武さんに聞く。やはりおかしい、姉さんは基本的に他人に興味を持たず見下している。その姉さんがこんな執着するような行動をするなんて…
「友達ですよ」
「へぇ、そう。友達ですか…」
武さんも「友達」という的確で当たり障りのない答えを返した。
「そっちこそ、姉さんと武さんはどんな関係なんですか?」
こちらからも姉さんとの関係を聞かせてもらう。
「いや、友達だけど…」
「そうですか。友達ですか…」
なんの変哲もない回答に見えるが、相手が姉さんだというのが問題だ。あの姉さんが友達なんてものを作るのか?
「じゃあ僕はここら辺で…」
そう話を切り上げ、武さんがここから去っていく。必然的にこの場には二人だけが残る。
「姉さ「凛、彼に手を出すのはやめてくれない?」
「なっ…そんな勝手な」
「彼は私が見つけたのよ。そして私は彼のものだし彼は私のもの。分かるでしょ? 私の妹だもの」
その刺すような冷たい声とこの世のものとは思えない歪んだ表情に背中に嫌な汗が垂れる。やはり姉は尋常じゃなく彼に執着している。
今まで私は姉に一度も何かで勝てたことがない。勉強、能力、性格、評判……全てだ。無意識にもその事実は私の中で劣等感を感じさせた。 裏の性格に気付いてしまったことも拍車をかけ、姉に逆らうことなく生きて来た。
……だけど、これだけは譲れない。姉さんと武さんは真逆とも言える存在だ。他人に興味を持たず助けるという考えすら持たない人と自分を犠牲にしてでも誰かを必ず助けようとする人、私が嫌悪している人と尊敬している人。二人はどこまでも真逆だ。
仮に私でなくたってもいい。でも、姉さんと結ばれる、一緒に生きていくことだけはダメだ。
「嫌です。あなたが手を引いてください」
はっきりと拒絶をすると、姉さんは驚いたような表情を浮かべた後、こちらを見つめながら殺気を向けて来た。
辺りが闇に包まれたような錯覚を覚える。足がすくみ、冷や汗が止まらない。
すると急に殺気が霧散した。
「へぇ、貴方が私に逆らうなんて… 面白いじゃない」
そう言って姉さんは私に背を向け去っていった。
「はぁ……!」
体から力が抜けその場にへたり込みそうになる。まだ心臓の鼓動が速く、息が荒い。姉に逆らうということはこういうことだ。
でも…、それでも。
もう覚悟は決めた、あとは進むだけだ。
side〜???〜
少女は優しい心を持つ人間だった。大人しかったが、困ってる人がいれば見過ごせないような不器用な子供だ。
能力が発現したのも傷ついた小鳥を助けようとしたためだった。もし彼女の能力が怪我を治す程度の能力ならばそのまま人々を癒しながら幸せに生きていただろう。
だが能力検査で明らかになったのはその異常なまでの出力だった。骨折どころか重症、致命傷、果ては死者蘇生すらもできるような出力を持っていた。
すぐにSランク能力者認定された。もちろん彼女もその力を世のために使おうと少しずつではあるが重症者を治療し始めていた。
このまま全てがうまくいくと思った矢先、その悲劇は起きた。
彼女の近くでテロが起き、多大な被害が出た。もちろん少女は必死に能力を使った。しかし死者蘇生ができるという噂を聞きつけた誰かが家族を生き返らせてくれるように懇願したのだ。
少女はそれを断った。理由は今は亡き母との約束だ。
検査を受ける前に少女は死んだ小鳥を生き返らせたことがある。善意からくるものだったが、それを見た母は見たことのない表情でそれを叱った。今まで一度も怒ったことがないような母がだ。
『いい? 確かに貴方が助けてあげたいという思いでその鳥を助けてあげたのは分かるわ。でも死というものは絶対に曲げちゃいけないものなの、終わりがあるから今を生きようともがき、輝く。だからもうその力で誰かを生き返らせるのはダメよ。』
子供の頃は完璧には理解できなかったが、その言葉を胸に刻んだ。
その後すぐに母は亡くなってしまったから、今ではその言葉が遺言のようなものだ。
しかし断った少女をその男は弾劾し、大きな声で叫んだ。
『何故助けられるのに助けない。この人殺し!』
悪意は感染する。周りの誰かを亡くした人々もこぞって少女を責めた。少女の味方をするものはーーいなかった。
少女は心を閉ざし、能力をあまり使わなくなり家に引きこもるようになった。
だから今日外に出たのは本当に気まぐれだ。ずっと家にいるのがなんとなく嫌だったからだ。
久しぶりの外の世界に少し興奮しながら歩き回っていると高校生ぐらいの男の子とぶつかってしまった。
「大丈夫?」
私を心配して聞いてくれるが、どうしても他人との交流には怯えてしまい声が詰まってしまう。
「だ、大丈夫。」
「そう。なら良かった」
安心したような表情を浮かべた彼が通り過ぎるかと思うと
ーー彼が私のことを手で押し飛ばした。勢いに耐えれず座り込んでしまう。何をするんだと思って前を見ると、彼の胸が赤く染まっていた。
撃たれた。その事実を認識するまでに時間はかからなかった。すぐさま能力で相手の場所を察知し、過剰な回復を送り暗殺者を倒した。
その後すぐに全力で能力を使って治療をした。とにかく焦っていた、動揺していた。
彼は私を助けるために命をかけ、重傷を負い命が危ない状況にいる。
先の一件とは違い正真正銘私のせいで傷つき、命を落とそうとしていたからだ。
なんとか治療が間に合い、後も残らないレベルで治療できた。しかし、彼に合わせる顔がなく、ベンチに彼を寝かせそのままそこを去った。
side〜開発者〜
やっと、やっと完成したぞ! 史上最高の生物兵器が!
なんといってもこれの長所は耐久力だ。Aランク能力者の攻撃ですらほぼ受け付けないほどだ。少しスピードと攻撃力は劣るが…それを埋めてあまりある性能だ。
だがまずこの性能を世間に知らしめなくてはならないが……何かちょうどいい相手はいないものか。
そういえばちょうど暗殺を依頼されていたそこそこ実力がありそうな奴がいたなそいつにするか。
$ $ $ $ $
ドオン!
斎藤武の前に生物兵器を降り立たせる。相手が動揺しているうちに手を振り上げ攻撃しようとする。それに対して何故か斎藤武は腹に向けてパンチを繰り出した。そういう能力を持っているという情報はなかったはずだが、やけを起こしたか?
「ふふっ、パンチなど効くはずもないだろう。仮にAランク能力者だとしてもほぼ効かないさ」
ドン!
「へ?」
斎藤武のパンチは豆腐を殴るようにいとも簡単に腹を貫通した。
ズウン…
簡単に最高傑作の生物兵器が倒されてしまった。
「へ? へへ、僕の最高傑作は? あれ? ちが、え?…」
その後彼は生物兵器を研究することはやめ、世のため人のためにその頭脳を役立てたとさ。めでたし、めでたし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます