第1.2話 太陽将軍都市防衛奮戦図(下)

 水墨画に話を戻す。画かれている兵士達は全員長銃を所持している。当時最新兵器であった火縄銃だろう。これは唯時代に既に火縄銃が量産され、同国内で軍に大量配備されていたことの証拠でもある。

 火を噴く火縄銃の先にいるのは転がるように逃げ回る兵士。その姿は実に奇妙に描かれている。て西洋風の鎧を装備しており、牛や馬、蜥蜴やカエルといった頭の人間達である。死神を意味する鎌を持った骸骨まで混じっており、ユーモラスさえ漂う。

 伝承には太陽将軍が妖怪人間を討伐したとある。しかし唯国に兵士が唯国風の鎧をしっかり装備しているのに対して、妖怪だけが西洋風の鎧というのは実に奇妙な話である。

この妖怪人間達は、西洋から来た何処かの国の軍隊、或いは西洋の鎧を購入、武装した国内の盗賊というのが大方の歴史学者の意見である。(もちろん、ドラマの中では太陽将軍は盟友の貝夫大人と共に力を合わせ、妖怪たちをなぎ倒し、姫君、或いは妻子、旅の途中で立ち寄った村の住人達を救うのである)

 央国大使館が博物館側に対し、「この水墨画は植民地時代に我が国から略奪されたものである。速やかに返還せよ」と、迫った事があった。

 ニュース報道が流れた際、盛英博物館に一枚の「レシート」が寄贈された。

 五百年ほど前のこの古いレシートはブリテンが世界初の株式会社である極東交易会社を設立した際、唯国との貿易品を取引したもの記録したものである。今後の貿易活動の参考にする為、大切に保管され、そのまま同国にはよくあるお城の金庫に現代まで眠り続けていたらしい。

 この「レシート」は漢字及び英字が両列に表記されており、何が取引されたのか、双方の五百年前の商人にとって。そして現代の考古学者にとっても当時何が取引されていたのか一目瞭然で非常に分かりやすく便利な物となっている。

 具体的な品目を見ていく。


鋼鉄長剣 Longsword

鋼鉄鎧  plate armor

鋼鉄盾  Iron shield

鋼鉄鉄球次回依頼品 

Morning star next order

絨毯 carpet

Additional request

南蛮服 clothes

Additional request

帽子 hat

Additional request

硝子製品 Glass products

Additional request

豆茶 coffee

Additional request

砂糖 sugar

Additional request

寝具 bedding

Out of stock next order

家具 furniture

Out of stock next order

食器 Tableware

Out of stock next order

絵画 picture

Out of stock next order

水差茶器 Jug Tea set

Out of stock next order


 茶漬帝統治後数十年は唯国は大変安定していたようで、武器需要は減少していた。その一方文化芸術は非常に栄え、特に珍しい西洋の品に興味を示す人々が増加していていたようだ。

 それに伴い、富裕層を中心に珍しい洋服を着たり、砂糖を使った菓子類を食するのが流行しているのが購入品目リストからわかる。家具まで買い求めている。


 問題は最後の文章であり、


支払銀不足 payment Silver shortage

美術品 Work of art

半額 Half price

次回猶予 Next visit

貸付 Lending


 代用芸術品「太陽将軍都市防衛奮戦図」金千両相当品也


Substitute art piece " general sun City Defense Struggle" Equivalent to 1,000 gold

(I have doubts)


 この太陽将軍都市防衛奮戦図で商品を半額にしろという取引に対し、極東貿易会社側の担当者が難色を示しているのがわかる。


 ここから先は憶測であるが、五百年前に唯国と極東貿易会社の取引交渉があったと思われる。結局は唯国側の担当者に押され、絵画を貿易船に積んで、国に帰国。五百年前のブリテンはまだ大貿易時代、つまり中世は終わっておらず、国内に貴族、騎士が大勢いた。


「この絵画はなんだ?」


「太陽将軍都市防衛奮戦図というものです」


「なんと!遥か異郷の地の騎士が領民を護るために剣を振るう様子が描かれているのかっ!!なんと素晴らしい!!騎士道精神を持つ者が我々の国以外にもいようとはっ!!この絵を是非とも売ってはくれまいかっ!!我が城に飾りたいのだっ!!」


 本当に金貨千枚で売れた。そして城に飾れた太陽将軍都市防衛奮戦図は五百年後の現在まで頑丈なお城の中でしっかりと残されていた。という事であろう。

 なお、レシートがしっかりと保存されていた事について、央国大使館からの正式回答はまだない。

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