第19話 山田仁の家庭事情

「お疲れ間です。皆さん」

 神崎さんが頭を下げた。

 それに仁が肩を大きく回していう。


「疲れた疲れた。今日は本気で疲れたわ」

 神崎さんが頬を赤く染めていう。


「仁はすごいですね」

「ん?何が?」

「あんなに勉強が詳しいなんて本当にすごいです」

 それにニヘラと仁は笑う。


「あんなの、普通、普通。こないだなんか慶次も褒められて(ほめられて)いたし、俺だけ優れているわけじゃないよ」


「そんなこと言ったって石井先生の一番のお気に入りはあんたよ。あんたによく石井先生当てるじゃない。あんたに期待を寄せているのよ」

 これは是枝。それに仁は。


「そうは言っても、あと1年も経てば就職するわけだし、期待されてもな」

「まあ、いいじゃないか。今は飯にしようぜ。ちょっと疲れたわ」


『賛成』

 全員賛成して、俺たちは弁当を食べることにした。パカっとみんなの弁当箱が開く。


「あら」

 俺の弁当箱を見た神崎さんが口を開く。


「それは藤木くんが作ったんですか?」

 それは美亜が作った豚生姜焼き弁当だった。なるほど、男の俺が作ったと思われても不思議ではない。


「いや、これは妹が作ったものだよ」

「へー」

 女性陣はのっぺらぼうの共感をした。俺は仁にも返事をもらおうと彼の方を見た。

「なあ、仁、これって・・・・・・」


 しかし、仁は能面(のうめん)の表情をしていた。

 それにあまりの無表情さに俺は言葉をなくした。

「なあ、慶次」


「何?」

「お前に妹がいたのか?」


「ああ」

 やはり能面の声で仁は言った。それに俺も何か分からずにおっかなびっくり答える。


「妹とは・・・・・・・」

 一拍(いっぱく)を置いていう。


「仲、悪いよな?」


「そんなことないけど」

 能面の無表情とは一転して、稲妻が走った。


「本当か!お前、実の妹とは仲がいいのか!?」

「ああ」

 それで俺はピンと来た。前に喫茶店で仁には妹がいる母子家庭だと言うことを。


「仁、まさか、お前」

 それに神崎さんが頷く(うなずく)。


「うん。仁にも妹さんがいるよ。ただ、あんまり仲は良くないみたいだけど・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

 その日、仁は俺とは一切口を聞かなかった。




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