第23話 課せられた義務

 体をきれいにした俺は村長様に呼び出された。


「フォレストウルフをやったそうだな」

「はい。採集に出ていたところを六匹のフォレストウルフに襲われました。なんとか倒すことはできましたが、一歩間違えばやられていました」

「そうか……。貴様は村人にしてはずいぶんと器用だな。貴様の職業はどうなっている? 本当に村人なのか?」

「はい。村人で間違いありません」

「……チッ。まあいい。フォレストウルフに襲われたのはどのあたりだ?」


 村長様は地図をテーブルにばさりと広げた。


「ええと、このあたりの地図、ですか?」

「他の何に見える?」

「いえ。それで、村は……」

「ここだ」

「はい。ええと、読み方は……」

「北が上だ。それとこの村の門は南にある」

「なるほど。ありがとうございます」


 地図によるとどうやらこの村は国境沿いにあるらしく、西にはクオリア王国という別の国があるようだ。


 この国の王都はここからかなり南にあり、件のフロンツ帝国とやらはこの地図には載っていないほど遠くにあるらしい。


「だとすると、南東のこの辺りになります」

「ほう。なるほど。ということは勇者様に追われた魔物のせいだろう」

「勇者様が?」

「ああ。王都には四人組の勇者様がいらっしゃるそうでな。魔物や盗賊を駆逐してくださっているのだそうだ」


 なるほど。あの四人の高校生たちはちゃんと今でも無事に勇者をしているらしい。赤の他人ではあるが、一緒に連れてこられたという間柄ではある。


 無茶なことをしていなければいいとは思うが、やはり高校生くらいだと大人たちにうまいこと丸め込まれてしまっているんだろうな。


「つまり勇者様の倒し損ねた魔物が別の場所に移動して、それが引き金になってフォレストウルフがこっちに移動してきたということですか?」

「そういうことだ。フォレストウルフはもともとこのあたりにはほとんどいなかったからな」


 そう言って村長様は舌打ちをした。


 いや、舌打ちをされるようなことを言った覚えはないぞ?


「まあいい。貴様もフォレストウルフを狩れるのなら森狩りをしてこい」

「え?」

「村でできる者がいるならば、その者がやる。当然であろう?」

「それはわかりますが、さすがに一人では……」

「だが、警備隊長のトーマスが出るわけにもいかんだろう? 貴様は盗賊に対して何もできなかったではないか」

「そ、それは……今度こそきちんと戦います!」

「どうだか……」


 村長様はそう言って冷たい目で俺をじっと見てきた。


「もう、大丈夫です。俺も村の一員ですから、村を守るためには戦います」

「……まあいい。それともう一つ、伝え忘れていたことがある」

「なんでしょうか?」

「税の話だ。貴様以外は全員農奴なので収穫したものの一部を徴収しているわけだが……」

「はい」

「貴様の場合はそれなりに稼げそうなのでな。今年は十万デールに決めた」

「えっ!? 十万!?」

「どうした? 農奴解放よりは遥かに安いぞ? それに貴様なら薬を売れば簡単に稼げるだろう?」

「で、ですがそんな……」

「払えなければ払えないでも構わん」

「え? いいんですか?」

「ああ。その代わり貴様は平民から農奴になるがな」

「そんな無茶苦茶な!」

「ここは儂の開拓村だ。儂がそうと決めたらそれがルールだ」


 いやいや。ブラックなんてもんじゃないじゃないか!


 ブラック企業だって法律は最低限守っていたぞ。それなのにこんな大事なことを独断で決めてしまうなんて!


 あ、いや。守ってなかったか。休みがなかったり残業代が出なかったりは日常茶飯事だしな。


 ああ、あと行きたくもない強制的に飲み会に連れるのも勘弁してほしかった。


 って、違う。そんなことよりも、こいつのほうがよほどヤバいじゃないか!


「それと、税を払わずにここから逃げた場合は脱税で奴隷落ちになるからな」


 いやいやいや。冗談じゃない。もしかしたら昔の大名やら名主やらがいた時代はこうだったのかもしれないけれど、やられたこっちとしてはたまったものではない。


 とはいえ、反論の材料が思い浮かばない。ええと、そうだ。そういえば!


「あの。フォレストウルフの素材はどうなるんですか?」

「ん? ああ。それは今度タークリーが来るからな。買い取ってもらう。三割は税として村に、残りは貴様とジェシカで自由に分けろ」

「えっ!? でもあいつは安く……」

「言っておくが、税を納めるまでは村から出ていくことは許さんぞ。四か月もの間住んでおきながら税を払わないなどということは許されんぞ?」

「……」


 なるほど。そういうことか。


 こいつ。俺が逃げられなくなるまで何も言わずに待っていたのか。


 農奴になればここから出ていけなくなり、そうすれば俺という労働力はこの村に縛り付けられることとなるということだろう。


 うわぁ。これはやられた。


「わかったな? 納税の期限は今年中だからな。あと四か月でしっかりと用意しておくように」

「く……」


 俺は何も言い返せずに村長様の家を後にしたのだった。


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