第21話 森のハンター
「ユートさん。お弁当を作ってきました。良かったら一緒に食べませんか?」
「ああ。ありがとう」
ジェシカちゃんはそう言ってバスケットを差し出してくれた。中身は黒パンに焼いたウサギ肉と野菜、それとチーズを挟んだサンドイッチだ。
木陰に腰を降ろすと心地よい森の風が頬を撫でる。
まるでピクニックに来たみたいだ。
「どうぞ」
促された俺は、遠慮なくジェシカちゃんのサンドイッチを頂く。
「あ、あの。美味しいですか?」
「うん。すごく美味しいよ。ありがとう」
正直に言うならば、日本で食べるサンドイッチのほうが味としては上なんだと思う。
パンだって柔らかくないし、ケチャップやマヨネーズのような調味料だって整っていない。野菜だって苦味が強いしお肉も柔らかくない。
でも、それを上回る満足感がある。
こうして手作りしてもらえたというだけで、そういった素材の問題を吹き飛ばすほどの味になるのだから不思議なものだ。
「本当ですか? ああ、よかった。このお弁当、私が一人で作ったんです」
そう言ってジェシカちゃんは安堵したような表情になった。
なるほど。いつもはジェシカちゃんだけで作るんじゃなくてブレンダさんのお手伝いだもんな。
「そっか。ありがとう。うれしいよ」
俺がそういうとジェシカちゃんは頬を染め、恥ずかしそうに俯いた。
いや、うん。なんだか可愛いな。
つい手を出したくなるが、ここは我慢だ。ちゃんと大人として理性的な対応をしないと。
そう思ってもう一つサンドイッチをつまんだところで、俺のミニマップに影が映った。
「!?」
慌てて立ち上がると弓を構えて影のほうを確認する。
すると、『▼フォレストウルフ』と書かれたマーカーが複数こちらに向かって進んできている。
「……フォレストウルフってことは、狼か。まさかこんなところに来るなんて」
「えっ!? フォレストウルフですか?」
「ああ。群れがこっちに向かってきている」
俺は矢を番えると狙いすまして放ったが、残念ながら命中しなかったようだ。
大きくフォレストウルフのマーカーが動いたところを見ると、どうやら躱されてしまったらしい。
「くそ。まずいな」
「わ、私も……」
ジェシカちゃんが震えながら木の枝を握りしめているが、これはさすがに狼の群れには太刀打ちできないだろう。
かといって逃げたとしても森の中で狼から逃げ切るのは無理だろう。
となるとジェシカちゃんだけを逃がして俺が食い止めるか?
だがまるでそんな俺の考えはお見通しだとばかりにフォレストウルフのマーカーは左右に分かれ、俺たちをぐるりと包囲するような動きを始めた。
ダメか。となると……。
「ジェシカちゃん。木登りはできる?」
「え? あ、えっと……たぶんできます」
「じゃあ、その木の上に登って貰える?」
「え? で、でも」
「もう囲まれている。ジェシカちゃんを守りながらは無理だ」
「は、はい」
ジェシカちゃんはそう言って俺たちが休んでいた木にしがみつくと器用に登っていった。
それと同時に近くの茂みにフォレストウルフたちが到着した。
数は、正面が二匹、あとはぐるりと取り囲むように四匹の合計六匹だ。
くそっ! こんなことなら前衛職を取っておくべきだった!
だが後悔先に立たずとはこのことだ。
それに悔やんだって何も始まらない。近づかれたら終わりなのだから、まずは先制しなければ!
俺は弓を構えると狙いを定め、茂みの中にいる一匹へと矢を放った。
ギャン!
今回はきちんと命中したらしく、悲鳴が聞こえてきた。
すかさず次の矢を構えると、茂みの中からフォレストウルフが飛び出してきた。
だがそこを矢で正面から撃ち抜いた。
よし! 二匹目。
「ユートさん。周りから!」
「ああ!」
俺はすぐに次の矢を番えると右から走ってきたフォレストウルフを撃ち抜いた。
三匹目!
次の矢を番えたが、残りの三匹はすでに俺の目の前まで迫ってきていた。
「ユートさん!」
ジェシカちゃんの悲鳴にも似た叫び声が頭上から聞こえてくる。
俺は素早く弓を引くと目の前の一匹に放つ。
これだけ近ければ狙いなど付けなくても当たる。
四匹目!
だが、次の二匹は俺に飛びかかってきている。
俺は弓での迎撃を諦めて横っ飛びをしたが、回避は間に合わなかった。
そのうちの一匹が俺の左すねに噛みついてきたのだ。
すさまじい激痛が走るが、ここでやられるわけにはいかない。
「この野郎!」
手に持った矢を狼の目思い切り突き刺してやった。
キャウン
フォレストウルフが悲鳴をあげる。
「こいつ! 離せよ!」
フォレストウルフに刺さっていた矢をぐりぐりと動かしてやると、強く噛みついていた力が緩んだ。
よし! チャンスだ!
俺は痛みをこらえて腰から解体用のナイフを取り出すと首筋に突き立てた。
ブシャーとものすごい血しぶきがが飛び散り、体中に生暖かい感触がべっとりとこびりく。
これでやっと五匹目!
もう一匹はどこだ?
周りを見回し、最後の一匹を見つけたときにはすでにもう遅かった。
フォレストウルフは俺の背後をとっており、飛びかかってきていたのだった。
ナイフは……まずい! 抜けない!
やばい! 間に合わない!
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「だからあれほど前衛で戦える戦闘職を取れと」と思った皆様、大正解でした。
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