第12話 木工師になってみた

 採集師になった二週間後、また村人がレベル10になったので今度は木工師の職業を取った。


 理由は単純で、木材を使って諸々の日用品や家具を作りたいからだ。それとたまにやって来るという行商人へ木工製品を売りつけられるかもしれないという下心もある。


 というわけで、今日は試しに木材を使って日用品を作ってみようと思う。


 まずはメニューを開き、インベントリに入っている丸太を木材へと加工する。このあたりの作業はメニューから選べば自動でやってくれて、できあがったら木材もインベントリに収納されるのでありがたい。


 そしてこの木材を使って作業台を作り、家の中に設置した。


 よし。これで準備は完了だ。


 なるほど。ゲームではきちんと見ることはなかったが、実際の作業台はただのテーブルにしか見えない。


 いや、木を加工するための作業台何だからそれはそうか。


 などと至ってどうでもいい自己ツッコミを入れつつ、早速作業を開始する。


 まずはインベントリから木材を取り出して作業台の上に設置し、そしてまたメニューを開く。


 メニュー画面には加工できる品物の一覧が表示されているので、そこから木の皿を選ぶと加工するボタンをタップした。


 すると作業台に置かれた木材がぼんやりと光に包まれ、徐々に加工されていく。


 木材が徐々に削られ、やがて木の皿とゴミに分離した。


 おお、すごい。楽ちんだ。


 ただ、SCOとは違ってゴミが出たというのは少し気になるな。


 もしかすると、ゲームのシステムを現実世界に当てはめるとこうなったということかも知れない。


 まあ、俺にとってはそんなことよりもきちんと加工できると分かったことのほうが遥かに重要だがな。


 よし、次はスプーンとフォークを作ろう。それからその次はマグカップを作って……。


◆◇◆


「――さん。ユートさん?」


 ふと誰かに呼ばれた気がして慌てて顔を上げた。どうやらいつの間にか居眠りをしてしまっていたらしい。


 顔を上げると、ジェシカちゃんが心配そうに俺を覗き込んでいる。


「あ、あれ?」

「あ、やっと起きましたね。ダメですよ。こんなところで寝ちゃ」

「あ、ああ。ごめん」

「ふふ。ユートさん、顔に痕がついていますよ?」

「え?」

「ほら、ここ」


 そういってジェシカちゃんは俺の額をそっと触ってきた。


「あ、ああ。そっか。あの木材に額を押し付けてたから」

「そうですね。でも、ユートさんって手先が器用なんですね! あの食器、ユートさんが作ったんですよね?」


 ジェシカちゃんはそう言って俺の作ったお皿を指さした。


「ああ。そうだよ。持っていく?」

「えっ? いいんですか?」

「ああ。ジェシカちゃんには世話になってるしね」

「ありがとうございます!」


 そう言ってジェシカちゃんは嬉しそうに木の皿を一つ、手に取った。


「すっごーい。すべすべですね! どうやったらこんなきれいになるんですか?」

「うーん? 普通にやったらこうなる感じ?」

「えー、すごいです。うちのお皿はこんなにすべすべじゃないですよ」


 ジェシカちゃんはいちいちそうやって驚いてくれるので、どうにも色々とあげたくなってしまう。


「ついでだからスプーンとフォークとマグカップもどう?」

「えっ? いいんですかっ? やったぁ!」


 ジェシカちゃんはそう言って嬉しそうに一つずつ手に持った。


「すごーい。カップもすべすべ」


 そう言ってジェシカちゃんはまたもや素直に喜んでくれる。


「そういえば、どうしたの? 何か用事があったの?」

「あっ! そうでした。行商人さんがついに来たそうなので、ユートさんを呼びにきたんです」

「え? ああ。そうだったんだ。ありがとう」


 俺は作りたての食器を手に家を出ると、ジェシカちゃんに続いて村長様のお屋敷前広場にやってきた。


 するとそこには一台の馬車が止まっており、その隣には小太りの男がいて所狭しと商品を並べていた。それを見るなり、ジェシカちゃんは少し暗い表情になる。


「あっ。今回もあの人なんだ……」

「どういうこと?」

「えっと。あの人はタークリーさんって言うんですけど、値段がいつも高くて……。でも一番よく来てくれるんですよね。だから助かってはいるんですけど……」


 なるほど。割高で売りつけられるからよく来ているということなのだろう。


 行商人だって商売をしているのだ。これだけ人口の少ない村に度々来ていたら大赤字だろうし、多少高くなるのは仕方がない気もする。


 ただ、名前がぼったくりを連想させるのはどういうことだろうか?


 いや、この国の名前は別に日本語基準じゃないんだから違うというのは分かるのだが……。


 そんなことを考えつつ、並べられた商品を見てみた。


 木や石でできた食器、鍋やフライパン、包丁などの調理道具から斧、なたくわなどの農作業用具、さらに剣まで売られている。その他にも衣類や傷薬、お酒などこの村では作られていない様々な製品が並べられていた。


 中でも目を引いたのは木の皿の値段だ。一皿五十デールなのだそうだが……。


「こんにちは」

「ああ、いらっしゃい。新入りかい?」

「そうなんですね。先月越してきました」

「そうですかい。村の暮らしはどうですかい?」

「ええ、まあまあですね。他の町では何か変わったことはありましたか?」

「変わったこと? そうだねぇ。ああ、なんでも勇者様があちこちで盗賊退治をがんばっているって聞いたね」

「勇者が盗賊退治?」


 どうやら彼らは戦争に行く前準備として治安維持をやらされているようだ。泥棒を捕まえると言えば高校生の彼らも協力しやすいに違いない。


「ええ。おかげで盗賊が逃げ出してね。今まで平和だったところに盗賊が出て大変だよ」

「なるほど」


 つまり、追い払われて別のところで盗賊行為を働くようになったということか。


 それはそれで大迷惑な気がするぞ。捕まえるなら捕まえるできちんとやり切って欲しいものだ。


「ところで、何かご入用で?」

「いや、これを買い取ってほしいんですけど」


 俺は自作の食器セットを差し出した。するとその男は皿を手に取ると眉をピクリと動かした。


「あんたが作ったのかい?」

「そうですね。いくらで買ってくれますか?」

「そうだな……。この四点セットで五デールなら買い取るけど、どうだい?」

「おいおい。いくらなんでもそれはないだろう。そこの皿は五十で売っているじゃないか」

「そうは言っても、運んでくるのにコストがかかるんだよ。他のところに運ぶのだって何日もかかるんだ。これでも良心的なほうだと思うがね。嫌なら他を当たってくれ。どうせ値段は変わらないよ」


 そう言って男はしっしっと追い払うような仕草をした。


 ぐぬぬ。ここまで言われるということはどうやらこれが相場なのかもしれない。


「分かったよ。じゃあ、これを十セット買ってくれ」

「毎度」


 男は俺が拾ったものよりも少し大きな銅貨を五枚手渡してきた。


 なるほど。これが十デール銅貨か。


 袋に入れるふりをしてインベントリに入れると『十デール銅貨×5』と表示されているので間違いない。


 そのままざっと並べられている商品をみるとそのまま何も買わずに露店を後にしたのだった。


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 本日はあと1回投稿予定ですが、状況的に間に合わないかもしれません。


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