第30話 ラッキーだったな

「フハハハハ! どうだリック!私の魔法はすごいだろう!?」

「あー、うん、すごいなー憧れちゃうなー」

「なんだその気の抜けた言い方は!!」


 討ち漏らした小鬼を丁寧に討伐しつつ、ようやくウィルに追いつくと、そんなことを言われた。


「そりゃあそうですよ、リック様は元々シエラ白金旅団に居たんですから」

「奴隷は黙ってろ!」


 うーん、いかにもな貴族。友達少なそうだ。


「……ふん、なめていられるのも今の内だ。討伐証明はこっちの方が多い。勝負は私の勝ちだな」

「あー、うん、すごいなー憧れちゃうなー」

「さっきと言っていることが一字一句同じではないか!」


 いや、だって……初心者でも楽勝な依頼だし、言っちゃうとアベルの方がすごい魔法唱えてたし、そもそも勝負に乗り気じゃないし……


「そんな事よりウィル、入り口でこれを見つけた。これがどういう事か分かるか?」


 俺はさっき拾った装飾をウィルに見せる。これが何か分かれば後々やりやすくなるのだが。


「なんだその小汚い板は、小鬼どもの防具か何かだろう?」


 ああ、やっぱり知らないのか、戦闘力があるとはいえ、知識はクラリスと同じかそれ以下だな。


「まあ、防具は防具なんだが……小鬼が自分で印を彫っている。つまり、ここの小鬼は組織として行動しているんだ」


 印はそこかしこに散見された。国旗や家紋のように、ある一つの共同体は自他を区別するために、しばしばこういった共通のシンボルを掲げている。


 そして、小鬼が組織立って行動しているという事は、そこには主がいるわけだ。


「組織として行動しているからなんだというのだ。貴様、私に勝てないからと言って――」

「グオオオォォォォ……」


 ウィルの言葉を遮って、洞窟の奥から何か大きな魔物が唸る声が聞こえてきた。


「魔物が組織立って行動している時は、そのダンジョンにはボスが居るんだよ」


 ドスン、ドスンと洞窟の奥から何かが歩いてくる気配がある。この大きさは雌小鬼(ゴブリンレディ)か……?


「な、なんだ、この足音は……!」

「だから、ボスだって……しかしデカいな、雌小鬼じゃないのか?」


 雌小鬼よりも大きいとなると、それはもう初心者パーティには手が負えない。金等級以上のパーティが取り組むべき依頼だ。


「ウィル、ラッキーだったな」

「はぁっ!? 何を言っている。ボスが居るんだぞ!」

「だから、初心者パーティに受けさせなくて正解だったって話だよっ」


 俺は足音のする方向へ手を向けて、いつでも魔法を使えるよう構えた。


 足音はさらに大きくなり、その姿がついに露わとなる。


「大鬼(トロール)かよ……!」

『ひええぇっ!!』


 リゼとウィルが気の抜けた悲鳴を二人同時に発する。


 ずんぐりむっくりとした巨体に、薄汚れた肌、そして手に持つ棍棒は、まるで木をそのまま引っこ抜いたような長大さだ。


「水弾、雷撃っ!!」


 威力の上がった雷撃を使ってダメージを与えようとするが、分厚い脂肪と体格差によって、それは阻まれてしまう。


「オオオオォォォッッ!!!」


 しかし、その一撃は俺たちを認知させるには十分だったらしい。大鬼は俺たちを見ると、悪臭を放つ口を大きく開けて、威嚇の雄叫びを上げた。


「リック様!」

「どうするのだリック!?」

「リゼはウィルを連れて入り口まで戻れ! 挟撃の罠はすべて外しておいた! ウィルは万一小鬼の襲撃があった時は守ってやってくれ!」


 リゼとウィルは同時に指示を求めてくる。俺は二人に指示をして、再び大鬼へと向き直る。


「俺は、こいつを何とかするっ!」


 敵はそこまで俊敏な動きはしない。しかし攻撃力と防御力、そして体力が高く、ちょっとやそっとの攻撃ではダメージを与えられない。


 加えてこの洞窟は廃坑、もしくは整備された洞窟のような形跡がなく、衝撃に弱そうだ。水弾>火球の水蒸気爆発やそれに類する魔法は使うべきではないだろう。


「……はいっ、了解ですリック様! ご無事で! 行きましょう、ウィルさん!」

「奴隷ごときが私の手を……ああもう、分かった! 自分で走れる! ……リック、この勝負は預けたぞ!」


 二人が思い思いの言葉を残して入り口へと走っていく。


「……さて、頑張りますか」


 誰に言うわけでもなく、俺は呟く。


 目の前にいる大鬼は戦闘態勢に入ったようで、ぎょろりと俺を睨み、牙をむき出しにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る