第12話 アベル達との再会

「……! シエラが何処にも居ないよ!」


 彼女の不在に初めて気づいたのは、セリカだった。


「なんだって……! ただでさえ身動きできないっていうのに、なんで……」


 食料には手を付けておらず。自分の装備だけを持ってシエラは忽然と居なくなっていた。


「サイゾウ、気づいたか?」

「いや……回復のために警戒を怠っていた。某の失態だ……」


 サイゾウは珍しく感情を表に出して歯噛みする。


「くそっ、こんな状況で一人で下山だと……? 死ぬつもりか?」


 幾分か雪は収まっているものの、消耗した体力で動くにはまだまだ危険な天候だ。特にシエラは先程の戦闘での傷も癒えておらず、アベルの治療も断っていた。


「ねえ、アベル……シエラ、もしかして、もしかして……」


 人数を減らして他の三人を生かそうとしている。セリカとアベルは同じ結論にたどり着く。


「っ!!」

「どこへ行く」


 反射的に外へ向かおうとする二人を、サイゾウは出口に立ちふさがって牽制する。


「どいてくれ、サイゾウ」

「そうだよ、サイゾウ! シエラが死んじゃう!」

「できんな、死人を一人から四人に増やすつもりか?」

「くっ……!」


 サイゾウの言う事はもっともであり、もう既にどうしようもない事だった。


 アベルは力なくへたり込み、セリカは目に涙を浮かべる。


「リックだけじゃなく、シエラまでいなくなるなんて……」

「駄目だ、僕たちはここで終わ――」

「回復、火球っ!」


 アベル達の絶望的なつぶやきは、凄まじい熱風と懐かしい声によってかき消された。



――



 人影が見えたので、思わず回復>火球の魔法を使ってしまった。


「ぽよちゃん、どう? あそこ? あってる? よし、リック様! あそこにいるのがシエラ白金旅団御一行みたいです!」


 観測用スライムは先程から凍てつくような風にさらされて、薄い水色に変色している。どうやら環境や魔力に感応して属性が変化するらしい。


 俺はリゼの言葉に安心して、洞穴の方向へ走っていく。


「みんな、無事かっ!?」

『リック!?』


 洞窟の中にいる全員が驚いてこっちを見る。俺にとっても懐かしい面々で、少し涙が出そうになった。


「な、何で君が……」

「説明は後でいいだろ? とにかく食料と燃料だ。ここで体力を回復させたら降りよう」


 俺はかつての仲間と話したいことが沢山あった。


 あの後判明した自分の能力。

 エルキ共和国での活躍、森の魔女ヤガー。

 そして……本当に俺の事を迷惑だと思って追放したのか。


 だが、とりあえずは命を確保しなければ、俺の連鎖術で冷気は防げたが、低下した体力まではどうしようもない。


 携帯用の火種を取り出して、持ってきた薪に着火する。酸素が足りなくなることが不安だったので、洞窟の入り口にそれを作った。


「リゼ、料理を頼む」

「あいさー! さあ、ぽよちゃんはちょっと離れててねー」


 リゼは手際よく雪を溶かした水から温かいスープを作っていく。


「リック、やはり生きていたか」

「リック! 夢じゃないよね? 本物だよね!?」

「ああ、さすがに死んだかと思ったけどね、俺の職業がようやくどういうものか分かったんだ」


 俺はリズの料理が出来上がるまで、三人と会えなかった間の話をすることにした。


「リックがいない間、シエラはかなり荒れていたな……実際、君を殺したような物だろう。僕たちも君が死んだと思っていたせいで、気持ちに余裕が持てなくなっていた」

「うん、でもサイゾウが「リックは生きてる」ってセリカだけには教えてくれたよ!」

「死体も無ければ遺留品もない。死んだと思うには早計だった……しかし、生きている確証もなく、セリカ以外には黙っていた」


 みんな苦労してたんだな……それと同時に、皆が俺の事を迷惑だなんて思ったことは、一度もないだろうという気持ちにもなれた。


「……? あれ、ところでシエラは?」


 俺は、ふと追放した張本人がこの場に居ないことに気が付いた。


「っ……彼女は」


 アベルの顔が曇る。まさか、既に……


「少し前に某の目を盗んで外へ向かってしまった。恐らく我々を生き永らえさせるために」

「なんだって!?」


 俺は思わず立ち上がって、洞窟から出ていこうとする。


「待て、リック……お前が助ける義理が何処にある?」

「何言ってんだサイゾウ!? 仲間だろ!?」


 俺は立ちふさがったサイゾウに、つかみ掛かりそうな勢いで食って掛かる。


「我々はそうだ。しかしお前は違う。パーティを追い出し、無一文で放り出した相手を、お前は助けに行くのか?」

「当たり前だろ! 正直、シエラを赦せない気持ちはある。だけどここで見捨てたら、あいつと同じことを俺がやってることになるんだ。それだけは俺が許せない!」


 俺はサイゾウの質問に、毅然と答える。


「……そうか、そういう奴だったな、お前は」


「ああ……リゼ、皆に食事を振る舞った後、体力が戻ったら下山してくれ、俺はシエラと一緒に降りる!」

「わっかりました! じゃあぽよちゃんを連れて行ってください! きっとシエラさんを見つけてくれますので!」


 リゼから観測用スライムを受け取って、俺は雪の降る山肌へ足を踏み出した。

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