触手監督!

「うおーっ、縄を解けーっ!」


 宙吊りにされたムロが、バタバタと暴れだす。


 セラやナオたちも、同様に拘束されている。


 偽の依頼で、セラたちは触手AV監督が管理するダンジョンに閉じ込められてしまったのだ。


 ハメられてしまった。

 まさかまだ触手AV監督が、あきらめていなかったとは。


「ジタバタしてもムダや! セラちゃんが首を縦に振ったら帰したるさかい、おとなしくしとけや!」


 触手をヌルヌルと動かしながら、ローパー監督が葉巻をふかす。ローパーという種族の魔物で、これまで一万本のAVを撮影してきた。


「ゲホゲホ。ウチらライブなんだから、ノドにダメージは勘弁してもらいたいね」

「ハン! 辛抱せえ。あんたらが大事に育てたセラちゃんが、ワシと約束してくれたらな!」


 触手監督はが撮影した触手ものAVは、どれもヒット作として世に出回っている。


「ワシはこれまで、いろんな職種モノを演出してきた。そのカラミ相手は、どれもがワシや。いわばワシこそが触手と言うてええやろう! ワシがどんだけの女優さんを昇天させてきたか、教えたろか?」

「孕ませられた人だっているだろ?」

「あんなもん演出じゃドアホ! ウソを本気にしたらアカン。現実と虚構の境界線は、常にギリギリを攻めなアカンのや! 素人はんには、本物にしか見えへんのやろうけど?」


 触手監督なりに、プライドがあるのだろう。


「ワシは相手を無理やりってのは性に合わん! せやからこうやって話し合いの場を設けてやな……」

「縛っておいて話し合いとか、話にならないわ?」


 もっともな意見を、レティが言った。


「だってワシモンスターやし、見た目的にも、襲撃されるリスクがあったんや」

「人質がいるから、下手な手は打てないわ。手を出さないから、開放してちょうだい」

「ええやろ。どうせワシの標的はオタクらやない」 


 バンドメンバーの縄を、触手監督が解除する。


「で、セラに何の用だ? 借金はチャラにしたよな?」

「こっちも確認済みや。AV出ろとも言わん」

「じゃあ、これ以上何が望みだ?」


 触手監督が、葉巻を踏み潰す。


「話は簡単や。セラちゃん、結婚してくれ」

「お断りします」


 秒でセラは拒絶した。


「さよか……やっぱり、触手は恋愛対象にはならんか」

「そういう問題じゃないです」

「論外かいな。つれんのう。それともタバコ飲みなんがアカンのか? せやったら禁煙を……」



「こんな手段でわたしと結婚しようという魂胆が間違っている、と言っているんです!」



 ムスッとした顔で、セラは言い返す。


「随分と感情的やな? この間会うたときとは別人や」

「過去イチでキレてます」

「よっしゃ。せやったらこっちも、モンスターらしく行くで!」


 監督は、セラだけ触手で縛り上げた。


「お前まさか、セラが触手マッサージに耐えられたら、逃してやるとかいうんじゃねえだろーな?」


 それは困る。セラはくすぐったがりなので、すぐにギブアップしてしまう。肩に手を置かれただけで、ゾワッとするのに。




「逆や! ワシを昇天させてみい!」




 なんと、触手AV監督が、ギターの形になる。


「こないな芸当もできるんやで」


 セラの手にすっぽりと収まった。手に馴染む。これが監督のテクニックか。ただセンシティブなだけじゃないんだ。


「そんなばっちいの触んなセラ!」

「私は平気です、ムロさん。思ったよりベタベタしませんから」


 こんな楽器があったら、トリコになってしまうかも。セラは一瞬、考え込んでしまった。


「なんのつもりだ、監督?」

「この子がギタリストやっていうんは、ワシかて知っとるわ。あんたの代わりに演奏してるってな」

「どうしてそれを!?」

「ワシはプロや。んなもん見抜けんでどないすんねん?」


 ナオが「くっ」とうめく。


「せやけどな、そんなんワシからしたらどーでもええんじゃ。ワシはセラちゃんさえもらえたらせれでええねん。そのための試練や。ワシを満足させてくれたら、ワシかて手を引くわい」

「なんかのAVみたいに触手で無理やりというわけじゃないんだな?」



「せやから、そんなんは撮影上の演出や。あんなええか? 女ってな、ガチでアヘらそうと思たら四時間かかんやぞ! 触手とか関係ない! ポルチオとか子宮マッサージとかと一緒なんじゃ!」



 ベッドトークから始まり、スキンシップなどで信頼関係を得て、そこから本番に望む。

「信頼なくしてアヘなし!」というのが、彼の信条だという。


「たしかにあんさんを昇天させるのは簡単や。せやけどそんなん、ワシは少しもおもんないんじゃ! フェアプレーで行こうやないけ!」


 監督には、監督なりのプライドがあるらしい。


「どや、受けて立つんか逃げるんかどっちや!」

「やります!」

「よっしゃ。そのギターテクでワシをうならせてくれや!」

「はい。では」


 セラは、ギターの弦にピックをかけた。


 すごい音だ。アフェクターをかけているわけじゃないのに、重低音が響く。楽器そのものが、音源となっているようだ。


「その調子やで。軽く触れられただけで、あんさんの実力がわかったわ。歌ってみるか?」

「え、ええ。じゃあみなさん、耳を塞いでください」


 歌っていいのか? ならば。


「あ~♪ あれ?」



 音痴が、治ったではないか!

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