プロミシング・ヤング・ウーマン ー21.9.29.

監督:エメラルド・フェネル



「痛快なのにモヤるのは、きっと弱者は弱者のままだから。」

スカッとしきれないから、奥が深いというか、なんというか。


本作に思い出すのは、痴漢に遭うのは短いスカートなんかはいているからだ。

云々のやり取りである。

ならそうしたものを前にしたとき人の心から、

自制心や善悪の区別、良心なんてなくなっていても問題ないよ、

ということなのか。


社会の目という他人事と、当事者視点が交錯することで、

本質をあぶり出してゆくサイコ・ホラーのようで復讐劇のような本作。

キレ者主人公が単独行動、無双なだけにハラハラも止まらない。


加えて「正義を行っている」と信じて邁進する女性の

堂々たるたたずまいが痛快だ。

同時に、そうまで駆り立てる怒りや絶望はもの悲しさを誘い、

のっけからチープ感漂う楽曲に退廃的な雰囲気も重なれば、

醸し出されてくる破滅感に懐かしの「テルマ&ルイーズ」さえ思い出してしまった。


この辺り、弱者が誰なのか最初から示しているようで、

ただ中で主人公が頑張れば頑張るほどぐっときもする。


シナリオはアッ、と驚くようで案外、古典的でカタイ展開をなぞっていると感じている。

ただパンチがこれほどまでに効いているのはひとえに、

その弱者が最後まで救われることがないところにあるのだろう。

やっぱりそこは令和の「テルマ&ルイーズ」だからかも。

スカッとしきれずモヤモヤ残る。

ここが何よりいい本作だ、と思うのである。



物語の書き方で、結論ありきで進めるものと、

結論を探して進むものがあると考える。

こちらはいわずもがな、結論ありきパターンだ。

このパターンのいいところは波状攻撃が仕掛けられる、とでも言うべきか。

結論についてを手を変え品を変え、何度も提示して印象を決定づけ、

ラストへ一丸となり持ち込めるところだと感じている。

敗退的と弱者と破滅はこの作品にもまさに何度もブチ込まれており、

どんなシーンにも気だるい不穏さが漂い続けていた。

この深層にこびりつくサブリミナル的な構成は、強い。

そういえばアカデミー賞脚本賞にノミネートされたか、受賞したとかいうことらしいが、名前から想像してしまうものと本作は違っていて意外だった。

だが言えることはとても明確で、シンプルで、メリハリの効いたホンだったなぁということだろうか。

エラそうに言ってますが。

ふともすると稚拙、大味にとらえられかねないそうした作りだが、

まるで感じなかったなぁと振り返ることのできる紙一重が良かったのかもと想像するのである。

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