13.みこ様はカレシの助けを待っていたのです。

 図書室を出て、昇降口に向かう。

 とにかくサッカー部の部室を確認しに行かなくてはならない!

 昇降口に着くと、そこには清水さんが立っていた。


「あれ? そんなに慌ててどうしたの?」

「い、いや、あのみこの体調の様子がおかしくなったと聞いて…」

「え? それならば、保健室だよね…?」

「え、まあ、そうなんだけど…。図書室で聞くと、連れて行ったのが、高3の人だったと聞いたので…」

「え? なんで、それだと昇降口で靴に履き替えるの? ちょっと落ち着いてよ…御手洗くん!」

「あ、はい…」

「みこちゃんは保健室で寝てるんでしょ? じゃあ、今から私と一緒に行きましょうよ」


 ボクの予想では、保健室ではないと踏んでいる。

ボクの第六感がそう伝えている。

 焦れば焦るほど、ボクは早くサッカー部の部室に走りたくなる。

 すると、清水さんがボクをギュッと抱きしめてきた。


「御手洗くん…。みこちゃんにすごく献身的やね…。ウチ、妬けてくるわ…。ウチの方が先に御手洗くんにツバつけてたのに…。あっさりと奪い取っていくんやもの…」

「……………え?」

「もう、鈍いなぁ~。私は御手洗くんのことを入学当初から好きやったんやで。これまでも話をしていた中でそういう匂わせしてきたんやけどなぁ…」


 全然気づいてなかった。

 ボクはそういう話は全く無縁という意識の中で暮らしていたから、清水さんからそういう話をされても、匂わされても全く気付いていなかった。


「そ、そうなんだ…。何かゴメン…」

「でもなぁ、急にみこちゃんが現れてから、御手洗くんにベッタリし始めちゃうんやもの…。こっちとしては何だか無性に腹が立ってきたわ~。ねえ、みこちゃんよりも私の方がええんやってところ見せたいねんけど…」


 と、いきなり胸元を晒し始めようとする清水さん。

 て、ここ昇降口ですけど!?


「ほら~、みこちゃんにもそこそこ負けへんスタイルしてると思うねんけど、どない~?」


 清水さんは胸元を腕で寄せて、そのままボクに擦り付けてくる。

 ボクはそんな清水さんの両肩を押さえ、僕から引き離す。


「ゴメン…。清水さん、すごく気持ちは嬉しいし、以前からそう思ってくれていたのなら、ちゃんとボクも反応してあげなきゃいけないのも分かる。だけど、今はボク自身、みこ以外見えていないんだ…。だから、みこのところに行かないといけない…。このままだとみこは間違いなく、保田に襲われる…」

「―――――――!?」

「みこの転校初日に保田に襲われかけたんだよ…みこは。一人で校庭を歩いていたら…。それ以来、みこにとって、保田はトラウマ的な存在なんだ…。どうしてもみこを救い出さなきゃ、ボクが彼女への約束を果たせなくなるんだ…。みこを一人にさせない! もう、みこを傷つけたくないんだ…!」


 清水さんはボクの話を一通り聞くと、


「ずるいわ…。後出しじゃんけんで勝ち逃げなんて…。みこちゃん、ずるいわ…。もういい。分かった。今回は諦めるわ」

「清水さん……」

「保田先輩はサッカー部の部室にいてるわ。中から鍵もかけてるやろうから、これ持っていき!」


 清水はボクに部室部屋の鍵を渡してくれる。


「それと、先生も連れて行った方がいいわ。説得できるように、この音声データ、あげる…」


 音声データがLINEでボクのスマホに届く。

 音声を流してみると、みこを連れ去るときの様子が、生々しく録音されていた。


「サンキュ! 清水!」

「もう、いいから、はよ行って!」


 清水さんはボクを突き飛ばすように押し出した。

 その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた…。

 ボクは職員室に向かって走り出した。



 妾が目を覚ますと、部室部屋のマットの上で寝かされていた。

 近くに保田がいたら、妾が起きてすぐに襲ってくるかもしれない…。そう思うと怖くなり、目を覚ましたことを悟られないように物音をさせずに周囲を見回した。

 まだ、身なりが乱れていないので、気絶した状態で襲われたわけではないようだ。そこはちょっとホッとした。

 用心深く手を後ろで束ねられている。

 でも、これ普通に脱がしにくいだけだと思うぞ…、と妾は冷静に感じた。

 もし、襲うのならばな……。

 周囲を見渡しても、誰もいる気配を感じない。

 どうやら、どこかに出かけているのだろうか…。

 妾は起き上がり、ドアまで歩いていく。

 ドアノブを回そうとするが、鍵がかかって開く様子はない。


「監禁されたようじゃな…」


 と、なるとここで起きていても無駄だ。

 起きているのがバレたら速攻襲われてしまうではないか…。

 もう一度、マットに倒れ込む。

 はぁ…………。

 深いため息をついてしまう。

 何で、こんな目にあってしまったんだ。

 ガチャリ…ギィィィィ……

 開錠されて、鉄のドアが開く。


(戻ってきたのか…?)


「何だよ…。まだ気絶してんのかよ…」


 保田はドアを施錠すると、妾の近くに来て、覗き込んでいる。(ようだ)

 そのまま妾のスカートに手をやる。

 ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?

 なんで、コイツに下着を覗かれてんの!?(たぶん)

 いやじゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?


「気絶してるまんまの方が、反抗的な態度にならないから犯しやすいんだよな…。やっぱ今から味見しておくか…」


 やっぱり襲われるんだ!?

 保田が妾の前に立ち、そのまま倒れている妾の首筋を舐めあげる。


(うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 気持ち悪いぃぃぃぃぃぃぃっ!!)


「てかさぁ、そろそろ起きろってーの!!」


 言うが早いか、保田は妾の脇腹を軽く殴りつける!


「ぐはぁっ!? ゲホ……ゲホ………」

「ほらぁ~、やっぱり起きてた~。舐めたときに分かってたんだよ~。ピクピクと小刻みに動いていたからさぁ…。舐めた真似しやがって…」

「ゲホッ……これから、妾をどうするつもりじゃ?」


 奴によって乱されていたスカートの裾を整える。

 保田はジュルジュルと口で言わせながら、妾に近づいてくる。


「決まってるじゃーん。そのエロい身体をこれから堪能させてもらうんだよー」

「断る…」

「お前にそんなことを決めれる権利はねーんだよ!」

「そう言われても嫌なものは嫌じゃ…。妾には彼氏もいるのでな…」

「ふん。あの根暗野郎か? あんな奴のどこがいいんだか?」

「バカにしおって…。あやつはお主にはないものを持っておるからの…。あやつはお主に比べると、常識も相手を思う優しさも持っておる」

「そんな綺麗ごとだけで人生上手くはやっていけねーよ。どうせなら、アイツにないものを俺は持ってるぞ」

「何じゃ…?」

「女を喜ばせるテクニックだ! 童貞のアイツと一緒にすんな!」

「ふん。お前のような思いやりのない素チンなど妾の相手としても願い下げじゃ」

「バカにすんじゃねーぞ!!!」


 保田は妾に馬乗りになり、逃げれないようにしたうえで、上着やカッターシャツを脱がし始める。

 脱がすなんてものじゃない…。ボタンをブチブチッと勢いで剥がし、ブラジャーに包まれた膨らみが出てくる。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「今頃可愛い声でいてんじゃねー! そっちから煽ってきたんだからな…。お前の身体をたっぷりと味わってやる!」


 そのまま、保田の手は妾のブラジャーに手をかけ、引きちぎる!

 ホックで止まってるからメッチャ痛い――――――――っ!!

 妾のたわわな胸を鷲摑みにし、そのまま顔を近づける。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「そこまでだ! 保田!」


(へ……? 誰……?)


 保田が妾から飛び退いたが、妾は動けなかった…。

 ホッと安心したのと同時に腰が抜けてしまったのだ。

 ほんの後少し遅かったら、凌辱を受けていた。

 そう思うだけで怖くなってきた。

 入り口には体育指導をされている先生方が保田が逃げられないように立ちふさがっている。

 先生方も妾の着衣の乱れっぷりに驚き、そして怒りに震えて顔を真っ赤にしている。


「くそっ! 何でバレたんだよ!」


 三流の犯罪者が言いそうなセリフを吐き出す。

 先生方は3人が力づくで保田を押さえつける。

 その後ろから雄一が心配そうな顔をしながら入ってくる。



 ボクは勢いよく先生方の後について、部室に飛び込んだ。


「みこ! 大丈夫か!?」

「雄一!」


 ボクはみこに近づき、手の拘束を解いた。

 みこは脱ぎ捨てられているブラジャーを付け直し、カッターシャツを寄せる。

 残念ながらボタンは引きちぎられているから、これ以上のことはできない。

 それを隠すように、ボクはみこを正面から抱いてあげる。


「良かった…。本当に良かった…」

「…………ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃんんん………」


 みこは安心して、突如泣き出した。

 身体が小刻みに震えていて、どれほどの恐怖に耐えたのかボクにも伝わってくる。

 先生たちによって、保田は連行されていった。



 少し時間が経って、パトカーのサイレン音も響いてくる。

 ボクらはそれを保健室で聞いた。

 学校指定のカッターシャツだったことから、破れたものの代わりをみこに新品が支給された。

 ベッドが置かれているカーテンの向こう側でみこは着替えている。

 保健の先生はすでに帰宅されていたので、ボクが鍵を占めて職員室に返すことになっている。


「ねえねえ、雄一…」


 カーテンの向こう側からみこの声が聞こえる。


「どうしたの?」

「もう大丈夫だから、こっちに来てほしいのじゃ…」

「え? カーテンのそっち側?」


 ボクが聞き返すと、小さな声で「うん」とみこがうなずく。

 ボクがカーテンの向こう側に行くと、すでにきちんと身なりを整えたみこがいた。

 みこは恥ずかしそうにしながら、ボクに近づくと、そっと腰に腕を回して抱き着いた。

 

「今日は助けてくれて…ありがとう……」

「あ、うん…。どういたしまして……」

「アイツの前で強がっていたのじゃが、お主が来てくれなかったら、って思うと……」

「間に合って、本当に良かったよ…」

「本当にありがとう…雄一……」


 みこはそういうと、ボクをベッドに押し倒し、唇を重ねてきた。


「本当に、本当に嬉しかったのじゃ…。お主がいなかったら…妾は……」


 みこは舌を絡めてきた。

 恐怖を吹き飛ばすために何度も唇を重ねた。



 長いキスの時間が終わり、みこは起き上がる。


「あまり保健室を長く使っておったら、今度は妾たちが怪しまれるぞ」

「あ、ホント、そうだね」


 ボクとみこは身なりを整えて、職員室に向かい、保健室の鍵を返した。

 外は夕日が暮れかかっていた。

 正門あたりでみこはボクの方に振り替えると、はにかんだ笑顔で、


「妾は雄一のことが本当に本当に大好きじゃ!」

「ボクもみこのことが大、大、大好きだよ!」


 周りに誰かがいたら本当に痛いバカップルだ。

 でも、これがボクらの本当の気持ち―――。

 これからも一緒であり続けたい―――。

 ボクは、みこは、ともにそう願ってやまないのであった。

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