7


 女の子の髪をといたことはあるだろうか。僕はある。その記念すべき一人目、それは。

 何を隠そう、僕の妹だ。


 こうして髪をといてやると、紗凪の髪が相当長いことに気付かされる。


「明日、放課後にシャンプーとコンディショナー買いに行くか。僕と同じ安物のシャンプーじゃこの長い髪に潤いを与えることは出来そうにないな」

「あぁ神よ……荒れ果てた荒野に恵みの雨を」

「紗凪、欲しいものがあったら僕に言えよ? ちゃんと叔父さんから生活費は貰っているし、お小遣いだってあるんだから。紗凪も女の子だし、美容にも気を回したらいい」

「そ、そそ、そんな、わたしがやっても、な、何も変わらないよ……生きてさえいれば明日は来るくらいに何も変わらないよ!」


 例えな。それはともかく、


「そうでもないぞ、ほら。生きてさえいれば、ヒトは変われる」


 紗凪を姿見鏡の前に誘導する。女の子とは、まこと恐ろしい生き物である。

 ただ、髪をといただけ。それだけで、こうにも印象が変わってしまうのだから。

 紗凪は鏡に映った自分に「え、あ、こんばんは、い、いらっしゃいませ?」と丁寧に会釈をし、「あ痛っ!」と見事に頭を打ちつけた。


「今夜はここまでか。でもいつかその前髪も切るから覚悟しておけよ?」

「嫌っ!」


 紗凪は前髪を両手で押さえて首を横に振る。

 どうやら、長い道のりになりそうである。

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