第26話 エロマニアwの恐怖

 茂みから出て来たそいつ。


 人面犬・ノライヌエンペラー。


 頭の禿げた、ウチらが最初に出会った奴や。


 後ろ足で立ち上がりながらそいつは、ウチらが悪事を暴いて追い詰めていたオッサンに語り掛けてきよった。

 その内容、完全には理解できへんかったけど。


 ろくでもないことや。


 その予感だけはあったから。


「やめなさい!」


「やめんか!」


 ウチとヒカリさんで、制止の声をあげたんやけど。


 無駄やったね。

 間に合えへんかった。


 オッサンは、ノライヌエンペラーに投げ渡されたDLメモリを自分の首に差して。

 禿げ頭のノライヌエンペラーも、同じようにDLメモリを自分の首に差しよった。


 その瞬間や。


 ノライヌエンペラーの身体が輝いて、光の粒子になって。


 オッサンの身体に降り注ぐ、


 同時に、オッサンの身体が変わっていったわ。


 犬の毛皮を頭からかぶった姿に。


 顔の上半分が、犬の毛皮の頭部分に覆われて。

 目の位置が毛皮の目の位置と一致。


 犬の毛皮で出来た、顔の上半分を隠すマスクみたいになっとる。


 目の穴から覗くオッサンの目が、赤く爛々と輝いて。


 毛皮で覆われた、両手足、胸。


 筋肉が増量してるみたいやった。


 それだけでも大変な事やのに。


 オッサン、両手に剣を持ってた。


 刃の真っ直ぐな、諸刃の直剣や。

 刀やない、反りの無い剣やね。


 それを二刀流よろしく、両手に引っ提げとった。


 そんな状態で、オッサンは吠えた。


「おおおおおお」


 ……声が2重になっとる!

 さっきのノライヌエンペラーと、オッサンの声が重なっとる!


 オッサンの変化したそれ……おそらく変異型のエロマニアは、自信に満ち溢れた声で


「力が漲るようだワン。これでもう誰も俺を馬鹿にできないワン」


 そんな事を吠えた。


 ……これは……えらいことやで……!


「さぁ、お前たちの罪を償う時間だワン」


 変異型エロマニアに成り果てたオッサンは、勝手なことをほざいて、両手の剣を振り上げて襲い掛かって来よった。


 ウチらは当然、泡喰って逃げ出した。


 変身しようにも、この場にはクローバさんとヨシミさんおるし。

 変身できへん。


 かといって、生身であんなもんと戦えいうのは無茶や。

 ウチら変身せんかったらただの女の子なんやで!?


 どないしたもんか……


 4人で同じ方向に走りまくりながら、ウチは必死で考えた。


 変異型エロマニアのオッサンはドスドスと、かなりのスピードで追ってきよる。

 このままじゃ追いつかれるのは時間の問題や。


 その前に、なんとか変身せんと……変身せんと……。


 そうや!


「ウチらが囮になります! その間にヨシミさんたち、逃げて下さい!」


 ウチの提案。

 これは会心の策やおもた。


 これでウチらとヨシミさんらと別れられれば、変身するチャンスも出来る!


 走りながらそうヨシミさんらに伝えると


「そんな!」


 ヨシミさんたちは、酷いショックを受けたみたいな顔をしはった。


 何故に……?


 その疑問はすぐに解けた。


「お客さんを囮にして逃げるなんて、できません!」


 あ……


 ヨシミさん、自分は成金や成金や言うてはるけど。

 上流階級の矜持みたいなもん、しっかり持ってはる方なんやね……


 ちょっと感心してもうたわ。


 でも、このままやったらイカンから……


 ウチは少し考えて、こう言うた。


「だったらバラバラに逃げましょう。ウチらとヨシミさんら、二手に。このままじゃ共倒れですから」


 どっちが追われる事になっても、恨みっこなし。

 そういうことで。


 どうでしょう?


 ウチのさらなる提案に、ヨシミさん、少し葛藤があったみたいやったけど。


 最後には了承してくれはった。



 で。



「やっぱウチを追ってくるわなぁ~!!」


 ウチは全力で走っていた。


 あの後、ヨシミさんたちと二手に分かれて逃げ出したら。


 2択で、ウチらが選ばれた。


 まあ、恨まれてる度でいえばウチのはずやし、こうなると半ば予想しとったけどな!


「オマエだけは許さないワーン!」


 ウチの焦りを誘うためか、変異型エロマニアのオッサンはわざとスピードを落としてるみたいやった。


 で、ブンブン剣を振り回しとる。


 あの剣で斬られたら死んでまうんやろか?

 それを想像して、ウチの背筋は寒くなる。


 けど……


 ……でも、エロマニアは女の子の泣きっ面を邪悪な女神に捧げるのが目的なんよね?


 殺してしもたら、泣きっ面もクソも無いんちゃうかな……?


 じゃあ、あの剣は一体……?


 ウチはひとり、全力で走りながら全力で考えとった。


 ブゥン!


 剣が襲ってくる!


 ウチはそのままでは避けきれないと判断したんで、跳んだんや。


 チッ!


 剣先が、ウチの左手の二の腕を掠めた感覚があった。


 肉にまでは届いてへんと思うけど、着物を斬られた!


 ごろごろごろーと転がりながら、ウチは斬られた個所をついつい見てしもた。


 そんなことをしてるヒマは無いはずやのに。


 でも。


 そのおかげやった。


 エロマニアの剣の秘密を、知るに至ることになったのは。


「……透けてる!」


 ウチの斬られた着物のその部分が、透明になっとったんや。

 着物が円形に切り取られたんかと思たけど、違う!


 見えへん部分にも、ちゃんと着物があった! 見えへんだけで!


 ウチが驚愕に固まりそうになっていると、オッサンエロマニアは言いよったわ。


「……それが『断面図』の力ワン。俺に斬られたものは、透明になってしまうんだワン!」


 ……血も凍る内容!


 斬ったものを透明にするやて!?


「このまま服を全部斬ってスッポンポンにするばかりか、身体も斬って内臓までスケスケにしてやるワーン!」


 ……く、狂とる!!


 そんなんして何がおもろいねん!?


「おなかの中まで衆目に晒して、恥ずかしさに泣くが良いワーン!」


 エロマニアのオッサンの声は上擦っとる。

 興奮しとるんや……!


 信じられへん!


 その変態ぶりに戦慄しつつも、ウチは必死で逃げた。


 内臓スケスケの人体模型みたいになってたまるか!


 運動神経そんなに良い方では無かったと思うんやけど、ウチ。

 必死になればイケるもんなんやね。


 両袖が見えなくなって、裾も大部分見えへんようになって。


 それでも、全裸と内臓は死守するウチ。


 ハァハァと息が上がってきたけど、諦めるわけにはいけへん!


「だいぶいい格好になってきたワン」


 スケベそうな視線を向けてくるエロマニアのオッサン。


 ウチは汗を手の甲で拭いながら、オッサンエロマニアを睨みつける。


「この変態! クズ人間のくせに変態やなんて、救いようが無いわ!」


「なんとでも言うがいい裏切りもんめワン。カンサイ人として、オシオキしてやるワン」


 言いながら、、ザンッと斬撃が飛んでくる。


 喰らえばスケスケ。

 喰らうわけにはいけへん!


 ウチは全力で飛び込んで躱す。


 それに、エロマニアのオッサンはちょっと焦れたみたいやった。


「チョコマカするのがいい加減ウザイワン……ここは『おさわり』の力を使うワン……」


 おさわり……?


 そう、おもた瞬間やった。


 ガシッ。


 足を掴まれたんや。


 地面から伸びて来た、土で出来た手に。


「え……」


 すごい力や……動かれへん!


 そんなウチに、オッサンエロマニアはワンワンワンと笑いよった。


「これが『おさわり』の力。形あるものすべてで、おさわりをすることが出来る力ワン!」


 これでもう、逃げることは出来ないワン。

 覚悟をしろワン。念入りにスケスケにしてやるワン。


 内臓までスケスケにされて、恥ずかしさでボロ泣きするがいいワン!!


 両手の剣を振るいながら、オッサンエロマニアが近づいてくる。


 ウチはどうすることもできへん……


 悔しい……。


 目を伏せる。


 もう、駄目なんか……?


 そう、おもたときやった。


「ノラハンターキーック!」


 オッサンエロマニアが、突如突っ込んできたヒカリさん……ウチとは別行動して、変身を終えてイザナミハンターになったヒカリさんが、間一髪。

 ドロップキックを敢行し、エロマニアのオッサンを蹴っ飛ばしてくれたんや!


 遅いですよ!


「よく頑張ったわね!」


 ヒカリさんはウチにウインクして、ウチの足を縛っていた土のおさわりの手を、手に持ったおりんスティック・如意棒モードで叩き壊してくれた。


 ……さあ、反撃開始や!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る