第13話 ウチが助ける!

 エロマニアの叫び!?


 ウチらは、エロマニアが出現したことをその叫び声で知った。


 浄化しにいかな!?

 それがウチらノラハンターの使命やろ!?


 ウチらは即座にそう判断し、ふたりで物陰に引っ込んで、正座する。


「イハイパクト・イザナミ、セット!」


「イハイパクト・ペルセポネー、セット!」


 同時に白と黒、それぞれのイハイパクトを目の前にセットし、おりんチャイムとおりんスティックを取り出す。


 そして。


 チーン…イーン…イーン……。


「変身!」


「変身!」


 最後のコールが、ほぼハモった。


 そして……


 ピカッという輝きの中。

 瞬く間にウチらふたりは、邪悪と戦う戦士・ノラハンターへと変身を完了させた。


「正義の使者……イザナミハンターここに降臨!」


「正義の使者・ペルセポネハンター、ここに参上や!」


 ……名乗りだけはしっかり上げておかんとな。無論ポーズつきで。

 誰も見てへんし聞いてへんけど。


 ケジメやから。


 そしてふたりで、拡大された身体能力を駆使し、現場に駆け付け……


 現場で暴れているエロマニアに、思い切りドロップキックをかましてやったんや。




 前のエロマニアは、頭部のない人型をしとったけど。


 今回のエロマニアは、人型ですら無かった。


 馬車みたいな車輪が4つついた金属の身体に、腕が2本生えとる直方体……。

 一応、前面にガラスで出来た目ェみたいなものがあったけど……。


 おおよそ、生物に見えへん姿やった。


『……ハイ〇ースの姿をしてるわね……とすると、DLメモリは「拉致監禁」……』


 エロマニアの姿を見たテツコは、難しい顔でそうエロマニアを分析した。


「拉致監禁?」


 これから浄化のために戦わなアカン相手や。

 得られる情報は拾えるだけ拾わなアカン。


 すると、テツコは教えてくれたわ。


 あのエロマニアの姿、ビッチヘイムの妖精たちが、女の子を攫うときに使う乗り物の姿に酷似しとるって。

 だから、あのエロマニアの体内には、女の子がたくさん捕まえられて、閉じ込められて中で泣いとるに違いない、って。


 えっ……そうなん……?


「どないしょ……思い切り蹴飛ばしてもーた……」


『一応、浄化するまでは控えた方がいいでしょうね……』


 ……というか。


「そのまんま、浄化しても大丈夫なん……?」


 そう、訊くと。


『……大丈夫と思う。きっと……』


 浄化は悪いものじゃないはずだし……


 そう、言われた。


 目を逸らしながら。


 ……

 ………


 それ、確証無いときのリアクションやんね?


 すると。


「やめてー!! アレの中に私の使用人が居るの!」


 パタパタと。

 ショートカットのいい着物を着たお嬢さんが、ウチらの傍に駆け付けて来た。

 必死の形相で。


 ……ヨシミさんや!


 一応、変身しとるから大丈夫や思うけど、念のため、ウチは手のひらで目を隠した。


「あのエロマニアの中にあなたの使用人が居るのね!?」


 ヒカリ様もウチに倣って、手のひらで目を隠しながらヨシミさんの言葉を聞いた。


 使用人いうと……クローバさんか。


『あの人、大丈夫な人なんですか?』


 ……そんな言葉が、ウチの脳裏にリフレインする。


 傷ついたなぁ……。


 でも……


 クローバさんのあの言葉、ご主人様を守りたい一心から出た言葉や。

 その心には、悪意なんか無いハズ。


 見ず知らずのウチよりも、仕えているご主人様の方が大事。

 それだけの事なんや。


 そこは、理解しなアカン。

 自分の痛みばかり訴えて、他人の大切なものを理解できないようでは、アカンやつや。


 ヒカリ様をお慕いしてるウチが、そんなアカンやつやったら、ウチと組んでるヒカリ様までアカンやつになる。

 そっちの方が、ウチは嫌やね。


 だから……


「分かった……」


 ウチは、ヒカリ様とヨシミさん、ふたりに背を向けて、こう言うた。


「……ウチがアレの中に入って。助けたる」


 地を蹴りながら。


「ペルセポネ!」


 ヒカリ様の声を背中に聞きながら。




 エロマニアァァァァ!!


 ……確かに、乗り物っぽいなぁ。

 本来は、多人数を乗せて移動するための乗り物なんやろうね。


 ハイ〇ースって。


 それが、拉致監禁の代名詞になって、DLメモリに封印されたエロマニアの原型になってしまうなんて。

 デザインした人、気の毒やなぁ……。


 まぁ、そんな感傷は今はええ。

 今はやらなあかんことが、ある。


 ダメージから復活したエロマニアが、周囲に居る女の子を追いかけ回して捕まえる行為を再開するために、女の子に狙いを定めて飛び出そうとしとった。

 胴体脇に存在している口を開けて。

 狙った女の子を捕まえたら、即そこに放り込むつもりなんやね。


 ……させへんよ!


 ウチは声を張り上げた。


「やい! エロマニア!」


 エロマニア?


 ウチが手でメガホン作って大声で呼びかけると、エロマニアの手がピタリと止まった。


 ウチは続ける。


「一般の弱い女の子の泣きっ面ばっかり集めて恥ずかしく無いんか!? 男やったらノラハンターの極上の泣きっ面欲しいとは思わんのかー!? 情けないやっちゃなー? それでも男かー?」


 エ、エロマニアッ!


 ……カチンときたみたいや。


 胴体の口に放り込もうとして狙っていた女の子を目標変更して、ウチに向かってきよったわ。

 両手を広げて、真っ直ぐに。


 胴体脇腹の口、開けっ放しのまんまで。


 ……どうやって口を開けさそかを考えてたんやけど、ありがたいわ。

 ウチはエロマニアに向かって臆することなく突き進み……


 素早く側面に回り込み、一切の躊躇なく大きく開いたエロマニアの口に飛び込んだんや。



 ……

 ………



 エロマニアの中は、異空間になっとった。

 明らかに、エロマニアの体積より広い。


 中の空気は、臭かった。

 油の臭いがする。


 長い間おったら、気分が悪くなりそうや。


 壁は見えへんかった。

 で、空間が赤やら紫やらの背景で、同色の床のようなものがある。


 そこに、女の子が、並べられてた。


 並べられて、拘束されとった。

 床から伸びたたくさんの手に。


 で。


 床から手が伸びて、手足を拘束し、バンザイさせて帯をくるくる解いて「あーれー」しとる。


 ……させへん!


 ウチにも手が伸びて来たけど、それをチョップとキックで打ち払い、ウチはあーれーされとる女の子を助けに飛び込んだ。

 拘束している手を、チョップや力で引き千切る!


 ……幸い、まだ完全にあーれーされた子はおらへんかったみたいや。


 ウチは首尾よく全員助け出せた。


「危ないところやったね」


 助け出したウチがそう言うと


「あ、ありがとうございます」


「助かりました……」


 半泣きの女の子たち。

 本当に、良かったわ。


 一生拭えないような心の傷を負うところやったね。


 ……その中に、ポニーテールの女の子……クローバさんもおった。


 正直、思うところは無かったわけやない。

 けど。


 ……ウチは正義の使者・ノラハンターになると決めたんや。

 ウチの個人的な感情なんてどうでもええねん。


 だから、言うたわ。


「はよ、逃げ!」


 出口を指差しながら。


「し、閉まりかけてる!」


「ま、待って!」


 女の子たちの焦り声。


 ……そう。

 

 ウチが飛び込んできた出入り口は、閉まろうとしとった。

 外の光がどんどん小さくなっていきよる。


 けど。



 ……床から伸びる手を薙ぎ払ったとき。

 ウチはエロマニアが悶え苦しむ声を聞いた気がした。


 つまり、ここで暴れると、エロマニアは苦しいんや。


 だったら……


 ウチは、両手を貫手の形にして、しゃがみ込み


「ペルセポネ羅漢撃~ッッ!!」


 床に激しく貫手を連続で叩き込む。


 貫手で穴だらけになる床。


 ルギアアアアアアアアアアッ!!


 今度は悲鳴が、ハッキリ、確実に聞こえたわ。


 ウチの速い突き、躱せるものなら躱してみい!


 まぁ、躱すという行為自体ができへん状況やけどな!!


 効果アリと分かったから、更に気合入れて突きまくる!

 床が穴だらけになって、同時に揺れ始めた!


 ゲロオオオオオオオオオ!!


 床が波打ち、次の瞬間。


 ウチらは、入って来た口から、まとめて吐き出された。


 言うなれば食べたらアカンものを食べたから、エロマニアの身体の防御反応として吐き出したんやね。


 ……まぁ、それはあくまで例えで。

 ウチら、別に食べ物扱いや無かったから、ゲロまみれになってないのだけは、ホントありがたかったわ。

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