第4話

「あー今日は研修だけだったけど疲れたな」


ベッドに寝転びながら言葉を漏らした。

夕飯も作る気力が起きなくて、帰りに弁当を買った。一人暮らしにはなかなか痛い出費だ。


「でも…」

そう言ってスマホの画面を見る。そこには連絡先に藤宮渚の名前があった。

男子校に入ってから始めてもらう女性の連絡先だ。

もっともシフトなどの相談用に使う、業務用のアカウントらしいが…


一考の余地も無くフラれてしまったが、考えてみればお互い初対面で何も知らないのだから当然のことだ。

そう割り切り、目を瞑る。

仲良くなれるといいな…その期待を胸に眠りにつくのであった。




——————————————————————————————

渚さんの厳しい新人研修を乗り越え一ヶ月もすると俺は完全にバイトに馴染むことができた。

相変わらず渚さんとは業務の話しかしないが…



そんなある日、唐突に事件は起きた。


3番テーブルにお冷を運んでいる時だった。


「おい、可愛いからってあんまり調子乗るんじゃねえよ」


怒鳴り声の元を見るとそこには、酔っ払った男3人組。机の上には店のワインが何本も見える。全員ニタニタとした薄汚い笑みを浮かべている。その視線の先には渚さん。


「お客様、他のお客様のご迷惑になりますので、ここでそのようなお話は困ります」


「そのような話ってなんなんだよ、口にしてくれなきゃみんなもなんのことかわからないよなぁ?」


そう言って男は仲間に賛同を求めた。


「そんなことあなたたちが一番よくわかってるいますよね」


渚さんがお客様と呼ぶことを忘れ、氷のような表情になる。


「なんだよその態度は」


そう言って渚さんの胸ぐらを掴もうとした。


「お客様、そろそろチェイサーにお水はいかがでしょうか?」


俺はその様子を見ると、思わず客の頭に水をかけていた。



ついついやってしまった。てかそもそもあのセリフはなんだ。微妙にダサくないか?

渚さんは少し驚いた目でこちらをみていた。


「渚さんは真弓さんを呼んできてください」


そういうと俺は渚さんと男の間に体を入れ、男たちと向かい合った。


「テメェ、何してくれてるんだ」

「すみません。うちの従業員が手を出されそうになっていたので思わず。水をかけた件については謝罪いたしますので、一度落ち着いて話しませんか?」

「謝罪なんていらねぇよ」

そういうと男は握りしめた拳を俺の顔面へと振り下ろした。


俺は殴られた拍子に倒れ込むと、後ろの席に頭をぶつけてしまった。

痛い…人生で初めて殴られたな。でも女の子を庇って殴られたならいいか。そう考えていると。


「私の大切な従業員に何してるのかしら、もう警察には通報してあります。これ以上の暴力行為はやめてくださるかしら」

その言葉とともに急いだ様子で真弓さんがきた。それを聞いた男たちは逃げるようにファミレスを出ていった。

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