第5話 ピクシー

「カルタン、約束通り人間の血をデザートに出してくれるのはいいが、いつも同じものばかりだとやっぱり飽きるのだぞよ」


 カルタンは、キラーパンサーのパンちゃんと、テイムの杖を使って雑談をしていました。


「パンちゃんはグルメだよね。他にどんな餌なら食べるの、パンちゃんは」


「人型モンスターならだいたい食べるが、久しぶりにピクシーが食べたいのだぞよ」


「ピクシーって言うと、小型の妖精のモンスターだね」


「そうだぞよ。味でいえば、人間よりうまいのだぞよ。オークほどボリュームはないが、柔らかくて美味なのだぞ」


「ふーん」


「カルタン、ピクシーを捕まえてくるのだぞよ。それで一緒に食べようではないかだぞよ」


「一緒に食べるのは遠慮するけど、ピクシーは捕まえてみるよ」


 カルタンはわりと楽観的に答えました。ピクシーなら、麻酔銃が効くので、マリアを連れていけば簡単に捕獲できそうです。


 マリアに捕獲協力を頼むと、簡単にOKしてくれました。


「で、今回は、カルタンはどうやって戦うの?」


「えっ? 僕も戦わないとだめ? マリア一人で大丈夫じゃないの?」


「何よ、全部私にやらせる気だったの?」


「そのつもりだったけど・・・」


「何言ってるのよ。そろそろあんたも麻酔銃の一丁でも撃てるようになりなさいよ」


「僕、基本的に罠猟専門なんだよなぁ。戦うの怖いし。射撃は絶対的に才能がないし」


「ピクシーはナイフも持っているし、小火炎球を放つファイアボールの魔法も使うわ。私が撃ちもらしたら、あんたが狙われるかもしれないのよ。自衛手段は持たないと」


「そうだなぁ・・・一応、眠りの魔法とマジックロープがあるから」


 そんなことを話しながら、二人は用具室へやってきました。


「これなんかどう、モンスターの頭を殴ると昏倒させられる片手持ちのピコリンハンマー。一応、魔法の武器よ。殺傷能力は皆無だけど、モンスターをスタンさせられる効果は大きいわね。携帯性も高いし」


「それなら、僕でもなんとか使えそうかな」


「モンスターを電気ショックで麻痺させられる、サンダーさすまたっていうのもあるけど」


「それはちょっと長くて大仰だから、ピコリンハンマーにしておくよ」


 こうして、新装備・ピコリンハンマーを持ったカルタンは、マリアとともにピクシー捕獲へと向かったのでした。


 やってきたのは、花咲く草原です。ピクシーは、花をつむ・・・のではなく、草原で草を食べるウサギなどの動物を捕らえて、ナイフでさばき、ファイアボールで焼いて食べるのです。身長は人間の膝ぐらいで、背中に透明な羽が生えていて、少しだけ空を飛びます。集団で行動するので、数が多いとそれなりに強敵になります。


 なお、見た目に反して好戦的で、人間を見ると襲いかかってきます。直接見たものはいませんが、人肉も食べるのではないかと言われています。


 マリアがピクシーの群れを見つけました。7匹います。緑の服を着て、草むらに同化していますが、これも優秀な魔道具である生体感知の円盤で、周囲を索敵することで、相手に見つからずに先手をうってピクシーを発見することができました。


 その距離は70mほど。


「もう少し近づいて、私がライフルで狙撃するわ。それで2体ぐらいは倒せると思う。その後、こっちに気づいたら襲ってくると思うから、可能な限り戦って」


「(がくぶるがくぶる) わ、わかったよ」


 マリアが、草陰に身を潜めながら前に進み、地面に腹ばいになって、ライフルを構えました。


 遠視スコープの中で、捕まえたウサギを焼きながら、その焚き火の周りで踊るピクシーたちが見えます。全員が、手にナイフを持って、踊りに合わせてナイフを突き上げています。


 バスッ。マリアがライフルを発射しました。麻酔弾が、一体のピクシーに命中し、その場に崩れ落ちます。ピクシーたちが騒ぎ出しました。まだ、どこから撃たれたかわからずに、ハイホー、ハイホーと叫びながら、周囲を見回しています。


 2発目の麻酔弾が、もう一体のピクシーを倒しました。そこで、ピクシーはマリアの位置に気づき、ハイホーと叫びながら、一斉にマリアに向かって走り始めました。


 マリアがライフルをその場に残して、腰の二丁拳銃を抜き、ピクシーたちに向かって駆け出します。カルタンもあとに続きます。


 ピクシーがファイアボールの魔法を放ってきました。マリアは横っ飛びにかわし、地面を転がりながら姿勢を立て直すと、拳銃を射ちました。麻酔弾が命中し、ピクシーが倒れます。これで3体。


 カルタンも、マジックロープをピクシーに投げつけました。1体にマジックロープが自動的に絡みつき、その動きを止めます。そこにスリープの魔法を放って眠らせ、1体を無力化しました。


 その間にも、マリアはさらに1体を撃ち倒していました。これで残り2体。そう思ったとき、マリアが地面に足を取られて倒れました。なんとそこには、ピクシーがしかけたウサギ取りの罠がしかけられており、マリアはそれに運悪くかかってしまったのです。


「キシャー、ハイホー!」


 残る2体のピクシーが揃って喜悦の笑みを浮かべ、奇声を上げて、マリアに襲いかかろうとします。


「カルタン!」


 マリアが助けを呼びます。カルタンがマリアに向かって走りながら、スリープの魔法を放ちました。1体が眠りに落ちて地面に倒れて転がります。それを見た最後のピクシーが、カルタンにターゲットを切り替えました。ナイフを振りかぶって、襲いかかってきます。


「ハイホー!!!」


「うおぉぉ!!!」


 両者がすれ違った刹那、ピコリーンという楽しげな音が響きました。がくっ、とピクシーの膝が折れて地面に倒れます。ピコリンハンマーが脳天に命中し、昏倒の魔法が発動したのでした。


 足に食いついた罠をやっとのことで外したマリアが、カルタンに歩み寄ります。少し足を引きずっています。


「やったわね、カルタン。ありがとう!」


 なんだかんだで、7体中3体を倒したカルタンは、ちょっと興奮気味です。


「はぁっ、ピコリンハンマーがけっこう強くて助かったよ」


 マリアがポーションを使って足を治し、二人でピクシーたちを輸送用の檻に閉じ込めました。なお、輸送用の檻は、魔法阻害の力を持っており、中からファイアボールは使えません。


「無事に捕獲できたけど、やっぱり人型モンスターだし、パンちゃんの餌にするのは若干忍びないなあ。ハイホー、ハイホー言ってるけど、何をしゃべってるんだろう。ちょっとテイムの杖で聞いてみようか」


『ちきしょー、人間どもめ! 貴様らの、はらわたを、ひきずりだして、焼いて喰らってやるわ!』


「ろくでもないことしか言ってなかった。好戦的なモンスターだなぁ。同情しなくていいか」


「まあ、先に狩りにいったのはこっちだから、どっこいどっこいだけどね」


 マリアは、捕まっても戦意を失わないピクシーたちに、その意気やよしという気持ちのようです。


 しかし、今回のピクシー捕獲は際どい戦いでした。捕獲班にはもっと人員が必要なようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る