第35話 オムライスを食べよう

「これ、なんだにゃ〜!」

 そうソックスが叫ぶ中、みんながテーブルについて、目を輝かせていた。

 そんなソックスに並べてもらったシルバーは、ナイフとフォークとスプーン。

 ナイフとフォークで十分だと思うけれど、「スプーン!」と一部から言われそうな気もしたのよね。


「これはね〜。オムライス。そして、こうするのよ!」

 私が、左手にフォーク、右手にナイフを持つ。

 フォークを添えて、自分の前のお皿に載った楕円型のオムレツを、動かないよう固定する。

 そして、ナイフの刃を当てて、ゆっくりと左から右へと切れ目を入れていく。


 つるりとなめらかな卵の表面に、ぷつり、と切れ目が入る。

 そして、中から、とろりとしたスクランブルエッグが溢れでる。

 溢れ出た柔らかな卵が、ケチャップライスの上に流れて覆う。


「うわぁ!」

「おおー!」

「なんにゃ! これ!」


 それぞれから、歓声が上がる。

 みんな見たことがないのだろう。驚きで目がまんまる。


「さ。みんなもどうぞ。ああ、スプーンだけでも食べられるからね。これじゃなくても大丈夫よ」

 私は手に持ったフォークとナイフをかざしてみせる。

「あと、この赤いソースは、味が物足りなかったら、各自上からかけてね」

 ナイフとフォークを皿の上に置いてから、ケチャップの入った器を指し示す。

「いただきます」

 私がいうと、それに促されたように、皆が、「いただきます!」と食事前の感謝の言葉を口にする。


 その後、真っ先にスプーンを右手に持つのはスラちゃんだ。

「美味しそうぽよ〜!」

 ゼリー状の体から、みょんと伸びた手にスプーンを持って、器用にオムレツを破りだす。

「うんまぁぁぁ!」

 そして、一口食べて絶叫した。あ、した後ね。


 みんながそれぞれ好きなカトラリーを手にして、オムレツを破り、食べはじめる。

「とろとろだくま〜!」

「ボクは、この少し甘いずっぱい味付き飯麦が好きにゃん!」

 それぞれに感想を漏らす。

 おおむね、好評みたいで、私も自然に口の両端が持ち上がってくるのを感じる。


「……これは、初めて見るな……」

 アルが、まだ驚いた様子で呟きながら、両手でナイフとフォークを持つ。そして、私がして見せたようにナイフでオムレツを割っていく。


 私は、アルの所作を横目で見ながら、カトラリーの扱いが綺麗だな、と思った。

 十五歳前後の男の子、ということを考えれば、もう少し音を立ててしまうとかが、ありそうなものではないかと思うんだけど。

 けれど、彼は違うのだ。


 やっぱり、良いところの出とか、身分が高いのかなぁ?

 勘ぐりをするというわけではないけれど、そんな印象だ。

 こういうのって意識すれば身につくとはいえ、一見いちげんでできるというものでもないよね。

 ……あ。また考えてる。


 そんな私の感想は置いておいて、アルだ。

 彼が左手に持ったフォークを、器用にくるりとひと回転させる。

 そして、ナイフで補助しながら、フォークの腹に飯麦と卵を載せる。

 それを口の前まで運んで、口を開けて、フォークの上に載せたものを口に運ぶ。


 ……やっぱり綺麗。


 やはり彼は、良い所の子なんだろう。

 前世確か二十九歳(うろ覚えになりつつある)だった私が、自分より年下の、少年を見る目で判断する。

 なんか、時々何か迷いでもありそうな、微妙な表情を見せるから、機会があったら……いや、彼が漏らしたい時に聞き役になろうかな。

 私はそんなことを思いながら、オムライスを食べるのだった。



 そうして、オムライスは「また食べたい!」とのリクエストをいただきながら、食事の時間も終わって後片付け。

 スラちゃん以外には、自分のお皿は自分で洗い場に持っていって欲しいとお願いした。

 そして、くまさんがお皿洗いを申し出てくれたので、彼女と私が呼んだアクアにお皿洗いをお願いする。


 ちなみに、スラちゃんも、「僕がパクリとしてモニョモニョすれば、お皿綺麗になるぽよ!」と申し出てくれたけれど、それは丁重にお断りした。

 スラちゃんは、不服そう。


 いや、確かに綺麗になるのかもしれないけれど、私の気持ち的にNGなのよ。ごめんなさい。

 え? やだよね?

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