1章.3

「ウケケケケケェ」


「ぎゃぁああぁ! なんだコイツ怖ぇよ、マジで」


 俺は走った。えぇ、走ったともさ……今まで、これ程までに速く走れたことは無いんじゃないかって位に。

 でもね、何故か奴との距離が離せないでいるんですよ。あのオッサン顔のマンドレイク、足が短い癖に俊足でした。


 自慢じゃないが、俺はこう見えて冒険者ランクは初級者であり、一角兎アルミラージですら手こずる始末である。


「おーい! おーい!」


 俺は叫び、飛び跳ね、手を振り、猫耳幼女に助けを求めた。

 アイツは、ああ見えて古龍ファフニールと互角に渡り合える程の戦闘狂。ただし――


 助けを呼ぶ俺の姿に、笑顔で元気に手を振り応えた猫耳幼女。花冠つけて楽しそうに踊っていやがります。あーハイハイ、可愛く似合ってますよお嬢さん。


 ――そう奴は、戦闘スイッチが入っていないと唯の幼女であった。


「ちがーう、そうじゃない! た・す・け・て」


 くそっ、駄目だ。この状況を理解してもらえていない。

 姉貴は? 森の魔女の弟子にして英雄等級の冒険者。姉貴に気づいてもらえさえすれば勝つる。


「姉貴ィ。気がついてくれ! おーい」


 だが、虚しくも未だ草摘みに夢中でコチラを見向きすらしていない……


 「これは、自分で何とかするしかないな」


 焦るこの状況に考えた。必死に――

 そう俺には、あの魔法があるではないか。駄目な俺でも唯一使える上級魔法。あれで殺るしかない……


「我が魂の叫びに応え、その業火で焼き尽くせ! インフェルノ!」


『シュ、ポッ』

 親指ほどの火が現れ、そして消え去った。


「えっ?! ……シュ、ポッじゃねぇよ! 何だよそれ。聞いてないし、今までそんなこと無かったし!」


「ぷッ、ギャハハ」


「あ、いま笑ったな。くっそマンドレイクがぁ」


 こうなったら物理攻撃だ。腰に備えた〈名刀アマクサ〉で切り刻んで殺る。

 右手をローブ内側に滑らせ、腰にある名刀を握りしめ。そして左手は懐に忍ばせたスローイングナイフを掴み、機会を探る。


 奴の足の動き――今だ!

 ズバッ、ズバッ。


 スローイングナイフを奴の足元へ投げつけ、地面に固定。それを確認し、間伐入れずに名刀アマクサで切り刻む。


 ズシャ、ジャッ、ズシャ。


 勝利を確信した。所詮マンドレイクは唯の植物。ヒューマンである俺に楯突いたことを、あの世で悔いるがいい。


「さて、魔法の件は納得いかないが、良しとしよう」


 だが次の瞬間、腹に衝撃が――


「ぐはッ……なっ、なんで」


 腹に重い一撃を貰い激痛が走った。おかしい……手応えはあった。それに奴はバラバラにしたはずなのに――何故。


「まだまだ修行が足りんな、小僧。お前が討ち取ったのは替え玉デコイだ」

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