1章.1

「あっ、七つ葉のクローバー発見ニャ!」


「アハハハ。ハァ……良かったね」


「うん!」


 猫耳幼女は見つけた七つ葉を誇らしげに掲げ、引き攣り笑いの俺に、元気よく返事を返してきた。なんとも微笑ましい。

 

 一説によると、四つ葉のクローバーの発生率は1万から10万分の1であるらしい。

 五つ葉では100万分の1。六つ葉は1600万分の1。

 では七つ葉の確率はというと、おおよそ2億5000万分の1と聞く。

 凄いね。これは運が良いってレベルじゃないね。

 

 ――いやいや、そうじゃない。そんな事はどうでも良い。俺らは、こんな所で何をやっているんだ。そもそもココは何処なんだって話です。


 猫耳幼女と俺ら姉弟は、迷宮ダンジョンで迷子です。

 おそらく此処は迷宮ダンジョンの第8か9階層付近と思われる。というのは正確な位置を見失い、おおよそでしか現在地を把握できていないからであり、迷子というか遭難です。

 はい、手に持つ地図も今は意味をなしてません……

 最後に覚えているのは、第7階層を探索中に大きな揺れの後にできた、地割れに呑まれ落ちたこと。そして、その狭間を抜け、転がり落ちた先が此処である。


 迷い込んだのは、ぽっかりと拓けた洞窟。

 天井には、発光成分を含む魔輝石の鉱脈により地上にいるかの如く、その一角だけ明るさに包まれている。

 そして、俺たちが腰を下ろしている場所には草花が群生していた。


 俺の右隣りでは、猫耳幼女が花冠作りに夢中でキャッキャしている。左隣りには、先程から何やらブツブツと呟き、未だクローバー収集に夢中の姉。

 俺は頭の中を整理するため姉に声をかけ、確認することにした。


「なぁ、姉貴。俺ら迷宮ダンジョンに、何しに来たんだったかな?」


「バジリスクの討伐よ」


「だよな……ここにソレがいるのか?」


「いないわよ。見ればわかるでしょ。それくらい」


「そう……ですよね」


 そうなんです。そんな魔物が居るような空間ではありません。心落ち着くメルヘンな場所です。

 妖精フェアリーが戯れ飛び交い。岩の影からコロボックルの家族が先程から怯え、視線をこちらに向けているのを感じております。


「チッ、はずれか。紛らわしい」


 何? 今の舌打ち?

 怖い怖い。それにお姉様、ソレは草花を摘むんじゃなく、むしるになってますし。やめて下さい。あそこで見ている妖精フェアリーさんが怯えています。


 くそぉ、駄目だコイツら……俺が何とかしないと――

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