第43話 イエロウ

 彩葉はスイセンの花をじっと見つめた。この子、スイセンなんだ…。そして寝そべったまま目を大きく開けて、朱雀の顔をまじまじと見た。


「朱雀さん・・・髪、何色です?」

「あ、オレ?金髪だったんだけど最近色褪せちゃって、黄色ナウ」

「それが、それが黄色?」

「へ?」


 彩葉は視線を目の前の花に戻した。スイセン、幸せの黄色のお花。翠と一緒に見たのと同じ、黄色のスイセン。彩葉の魂は一瞬故郷の海辺へワープした。冷たい風に揺れながら健気けなげに咲き誇っていた黄色いスイセンたち。翠が言う『あたしたちの象徴』。雪野原の冷気、重い海鳴り、灰色の空と海。そんなモノクロームの世界に凛として存在したこの色が黄色。キミは飛んできてくれたの? 私に幸せをもたらせる為、あの海辺から飛んで来てくれたの? 


 はらはらと彩葉の目から涙が零れた。有難う、有難う、スイセン。

 有難う、故郷ふるさとの色と風。


 何度か瞬きをした彩葉は上半身を起こして交差点の方を見た。信号が青から、


「黄色だ。黄色見えます! 朱雀さん、黄色見えるようになっちゃった!」

「ええーー? マジ? ホント? 見えるの?」

「だって、信号の真ん中って黄色ですよね? 朱雀さんの髪の色。このスイセンのお花の色。これが黄色でしょ?」


 朱雀は震える指で彩葉を抱き起こした。奇跡だ…。


「すげえ、雪の横断歩道で転ぶといつも奇跡が起こる」

「なんだかウソみたいです…」


 朱雀はスマホを取り出した。彩葉は周囲をキョロキョロ見ている。凄い…雪の他にはみんな色がある。これが朱雀さんが言ってたぶわーっとした世界。カラフルってこう言う事なのか。眩しくて目がつぶれそう…。


「もしもし!姉ちゃん!聞いて!奇跡が起こった!彩葉ちゃん、黄色見えるようになったぁ!」


 スマホを持ったまま興奮した朱雀は、周囲の目を無視して大声で叫ぶ。


「嘘じゃねえよ、信号が全部見えるって、そ、これでみんな見える。え?、いや、転んでさ、また横断歩道!」


 彩葉はまた並木の根元にしゃがみ込んだ。黄色いスイセンの花にそっと手を添える。イエロウ、幸せの色は幸せの日にやって来た。私、きっと一番好きな色だ。

イエロウ… 有難う、イエロウ。 



 都会のスイセンは、自動車が走り抜ける風に、そっと頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る