第27話 編曲

 朱雀は目を剥いた。


「マ、マジ…かよ…」


「こんな嘘は言わないよ。あんたのお蔭だよ。あんたが身を犠牲にしてイロハにくれないを教えたんだ」

「えっ?」

「朱雀が血を吐いて倒れた時、イロハは赤色が見えるようになった。多分ショックを受け過ぎて」


「えーーーーーー?」


 朱雀は口をパクパクさせた。


「偉かったよ朱雀。褒めてあげる。ちゃんと自分で言った通りのことを成し遂げたのよ」

「いや、そう言われても…、えーーーー?」

「でもね、まだ未公表なんだ」

「な、なんで?」

「イロハもあんたが吐いた血の色で赤が見えるようになったなんて言えないじゃない。あの子も失神しちゃったんだってよ、その時」

「そう…なのか」


「でさ、ここからが頼みなんだ」

「オレに?」

「そう。赤が見えるようになったって事はさ、あの子の色覚異常は先天性じゃなくて後天的になったものと思うのよ」

「なるほど」

「だから、他の色もきっと見えるようになる。朱雀の想いは叶うかも知れないってことよ」

「そ、そうか…でも、オレ青い血は吐けない」

「血はもういいの。そうじゃない方面でね、イロハの心の奥深くに色を届けてあげるように出来ないかって」

「言うは易し…だよな」

「うん。勝算は全くないんだけど、音楽の力ってもっと信じてもいいんじゃない?私たちは音楽家なんだから」


「音楽?」

「そ。来年の1学期末の演奏会でね、そういう曲を吹かせたいの。イロハもきっと1年前のこと思い出すだろうから、そこに上手く便乗する」

「意味わかんね」

「あんたさ、ピアノの演奏家は難しいでしょ?声楽だってあんな実績作っちゃったらドクターも怖くてやめろって言うと思う」

「ああ。音楽教師位しか残らんな」

「だから作曲しなよ」

「作曲?」


 瑠璃は持って来たトートバックからガサガサとクリアファイルを取り出した。


「これ、俊が書いた曲なの」

「俊って、えっと姉ちゃんの元カレ?」

「ん」

「森から青?」

「なんだか変なタイトルなんだけど、弾いてみたらまさにそんな感じだった」

「へーえ」

「朱雀、これを編曲してさ、来年のイロハの学期末演奏会の曲に仕立ててよ。フルートとピアノ伴奏のスコア作ってよ」

「え??」

「音楽的な才能は私より朱雀の方がずっと上だし、きっと出来るよ。それをイロハに吹かせよう」

「すげー遠大な計画」


「上手くいけばイロハは色が見えるようになるし、朱雀は作曲家の道に乗り出せるし、私は俊に一つお返しが出来る」

「うん…」

「三方良しってこのことよ」

「うわ」


 朱雀は瑠璃を見つめた。姉ちゃん、哀しみ抱えたままだ。表に出さない深い傷がある。だからきっとこの楽譜には姉ちゃんの想いも籠ってる。それが届くなら、死んだ元カレも浮かばれる。四方良しだよな…。

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